田部康喜のTV読本

2017年6月7日

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田部康喜 (たべ・こうき)

東日本国際大学客員教授

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 江戸時代の文久年間(1861~1864)を時代設定にした、NHK総合土曜時代ドラマ「みをつくし料理帖」(午後6時5分)は、ふとした出会いから料理屋を任された・澪(みお・黒木華)の料理人としての成長のドラマである。

 新しい料理とその命名、売り出しと人気を呼ぶ工夫、ライバルにそれを盗まれて、対抗するために新たな料理を作り出す……現代のマーケティング論にも通じる魅力を持った、時代劇である。しかも、落語の人情噺に通じるような「江戸の風」を感じる作品である。

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江戸では食べられていなかった戻りガツオを……

 大阪生まれの澪は、洪水によって両親を失って、大阪の一流料亭の「天満一兆庵」の主人嘉平衛(かへい・国広富之)と女将の芳(よし・安田成美)に引き取られ、奉公人となってその才能を認められて料理人となった。その料亭も火事で失われ、3人は江戸店を任せていた一人息子の佐兵衛(さへい・柳下大)を頼って江戸に出た。しかし、その佐兵衛は遊女に入れ上げて店を人手に渡して、失踪していた。その心労がたたって、嘉平は亡くなり、女将の芳と澪は裏店(うらだな)でふたり暮らしを始める。

 近所の荒れ果てた「化け物稲荷」と呼ばれる神社を、澪が雑草を取り除いてお参りができるようにしていたところを、蕎麦屋「つる家」を営む種市(小日向文世)が亡くなった娘の面影を見出して店で働くようにしたのだった。しばらくして、種市は腰を痛めたためにそば打ちができなくなって、澪に雇われ店主として店を料理屋にしたのである。

 原作は髙田郁のベストセラー・シリーズである。脚本の藤本有紀は、近松門左衛門の生涯を描いた「ちかえもん」(NHK総合・2016年)で、怪優・松尾スズキを主人公に起用して、執筆に苦しむ門左衛門を描いた異色の時代劇を書き上げた。

 第3回「三つ葉尽くし」(6月3日)は、初回「はてなの飯」と第2回「とろとろ茶碗蒸し」を受けて、澪の料理人としての奮闘ぶりが熱を帯びてきた。それは、新しい料理を工夫して、客を呼び込むことに成功した自信と、澪の前に立ちはだかる江戸の一流料亭の「登龍楼」の姿が現れてきたからである。

 「はてなの飯」とは、大阪では脂がのっているので好まれる、戻りガツオを澪が時雨煮にして店に出してみると、江戸では「猫またぎ」と呼ばれていて一向に売れない。澪は大阪風の俵型のおにぎりに、戻りガツオを刻んで味をつけたものを入れて、まずは店頭で「はてなの飯」と銘打ってタダで配り始めた。気に入ったお客には店に呼び込み、一汁一菜と合わせて食べてもうらおうという作戦は当たった。

 「つる家」の閉店間際にふらりと現れる、浪人風の武士・小松原(森山未來)は料理の味ばかりではなく、料理人の心得まで厳しく、澪に教え諭す存在である。若手の実力派俳優である森山と、黒木のやり取りは、ときに火花が散りときにユーモアがあふれる。

 「お前の料理は本筋から外れている。本筋に戻れ」「料理の基本がなってない」と、小松原は容赦がない。

 昼間に客に出していた汁をすすった小松原は、そう言い放ったまま、答えを教えることなく店を出ていく。

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