NHK連続テレビ小説『ひよっこ』が、田園地帯とリンゴ園が広がる茨城県奥茨城村を舞台にして始まった。主人公は、高校3年生の谷田部みね子(有村架純)である。
有村がテレビ小説に出演するのは、『あまちゃん』(2013年度上半期)以来である。主人公である天野アキ(のん)の母親・春子(小泉今日子)の青春時代を演じて、一躍注目された。
第1週「お父ちゃんが帰ってくる!」(4月3日~8日)と、第2週「泣くのはいやだ、笑っちゃおう」(10日~15日)によって、父親の実(沢村一樹)や母親の美代子(木村佳乃)、幼馴染の助川時子(佐久間結衣)、角谷三男(泉澤祐希)らがテンポよく紹介されながら、みね子の運命が翻弄されていく伏線が張られていく。
出稼ぎしていた父の失踪
時代は、1964年の東京五輪の開催直前である。作家の小林信彦氏は、東京の街が大きく変貌を遂げて時代が変わるのは、戦災と東京五輪であると述べている。
みね子の父・実が東京に出稼ぎに出て、工事現場で働く背景には国会議事堂が見える。「超高層のあけぼの」といわれた霞が関ビルであることがうかがえる。
稲刈りのために帰ってきた父・実(沢村)を囲んで、母・美代子(木村)と祖父・茂(古谷一行)が家計について話しているのを、みね子は寝床で聞く。それに気づいた実は「もう大人なんだから、こっちにきて聞け」という。
谷田部家の家計は、稲作を中心とした収入に野菜などからくる収入、そして数年前の凶作のときに農協からの借金と肥料などの支出のために、実が出稼ぎにでなければやっていけないことが語られる。
作家の開高健は、その時代のルポルタージュ『ずばり東京』のなかで、五輪の開会式について触れている。テーマ曲は、寺の梵鐘の音を題材にした黛敏郎の楽曲だった。開高は「いよいよこちらはおとむらいの気分になってくる。暗い、陰鬱な、いやなことばかり考えて、どうしようもなく陰々滅々になってゆくのである」と書き綴っている。その後に、五輪関係の工事で亡くなった人々の人数を記している。「▽高層ビル……16人▽地下鉄工事……16人▽高速道路……55人▽モノレール5人」と。
谷田部一家は、東京に出稼ぎにいった実の身を常に心配している。テレビのニュースで工事現場の事故で死者が出たと知ると、近所の電話がある家まで走って実の住む工事現場の宿舎に電話をかける。実は無事だった。
実が帰ってくる日、美代子はきれいな花柄のブラウスを身に着け、薄化粧をしていることにみね子はきづく。東北の出稼ぎ農家の主婦は夫が不在で、夜も眠れない、と当時の手記にあった。