偽情報戦争

あなたの頭の中で起こる戦い

小泉 悠 ,桒原 響子 ,小宮山 功一朗
電子版あり
偽情報戦争
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偽情報戦争
あなたの頭の中で起こる戦い
小泉 悠 ,桒原 響子 ,小宮山 功一朗

現代の戦争は我々の「頭の中」でも起きかねない。新時代に必要な情報安全保障について、 ロシア軍事専門家の小泉悠氏はじめ気鋭の専門家3人が提言する!

定価:2,090円(税込み)
四六判並製 256ページ
発売日:2023年 1月20日
ISBN:978-4-86310-259-0
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<好評2刷>(2023年1月)

◎ロシア・ウクライナ戦争の行方を左右する「情報」をめぐる戦い!

――――――――――――――――――――――――――――――――
現代の戦争は我々の「頭の中」でも起きかねない。
新時代に必要な情報安全保障について、
ロシア軍事専門家の小泉悠氏はじめ気鋭の専門家3人が提言する!
――――――――――――――――――――――――――――――――


情報をめぐる新時代の闘争は、我々の「頭の中」でさえ起きる!
ロシアは2022年ウクライナ侵攻以前から、偽情報の発信や情報戦を駆使してきた。
人間の「認知」領域は新しい時代における闘争において重要な要素を占めることとなり、
国家の安全保障上の一つの焦点となるであろう。
しかし、日本ではまだその重要性や脅威について認識が高まっているとは言えない。
我々はディスインフォメーションをどのように理解し、備えるべきなのか――。
ロシアの軍事専門家・小泉悠氏をはじめ、新進気鋭の若手専門家3人が立体的考察を試みる!

 

<本書の目次>
第1章 外交と偽情報――ディスインフォメーションという脅威(桒原響子)
・脅威となる偽情報
複雑化する世論形成手段/情報はこうして拡散する/世論形成のための外交・安全保障手段と定義/世界中で増加する偽情報
・日本は偽情報の脅威に晒されにくい?
国内発のフェイクニュース対策にとどまる日本/偽情報の真の問題/高まる日本への期待と現実
・海外の偽情報対策
日本との協力を模索する欧州/中国からの偽情報を警戒する台湾/対策と抑圧のジレンマ

第2章 中国の情報戦――その強硬姿勢と世界の反応(桒原響子)
・偽情報を使った中国のキャンペーン
中国外交部副報道局長の「浮世絵ツイート」/存在しない「研究員」のインタビュー掲載
・日本における中国の「戦狼外交」
駐大阪中国総領事館公式ツイッター/新総領事着任の前後の変化/逆効果となった戦狼ツイート
・強硬姿勢が目立つ中国外交
新型コロナウイルス対応で悪化した対中イメージ/高まる中国への警戒感/習近平の目指す「愛される中国」の真意/対策進まぬ日本の課題
・台湾有事と偽情報
台湾有事では人々の「認知」も狙われる/偽情報で世論の「分断」図る

第3章 ロシアの情報作戦――陰謀論的世界観を支える理論(小泉悠)
・プーチンの世界観
繰り返される「第五列」発言/カラー革命への恐怖/「市民」という概念を信じないプーチン
・ロシアの情報作戦理論家たち
情報戦理論の源流・メッスネル/「電波侵略」による「反乱戦争」/パナーリンの「情報戦争」理論
・情報作戦の実際
「2011」――内なる敵に対する情報戦争/「2014」――ウクライナに対する情報戦/そして「2016」へ/成就した理論家の予言
・情報という怪物
生物兵器との類似性/反撃を受けるロシア

第4章 ポスト「2016」の世界――ロシア・ウクライナ戦争までの情報戦の成功と失敗(小泉悠・桒原響子)
・2020年米国大統領選をめぐる混乱
「前方防衛」で対抗/トランプのクーデター未遂?/陰謀論と情報戦の結び付き
・ロシアのウクライナ侵攻と情報戦
「2014」の再演はならず/プーチンの誤算/穏やかさが際立った日本の国会演説/なぜ演説だけで一定の「成功」を収められたのか/スペイン語圏などに広がるロシアの情報戦
・ウクライナ報道の危うさ
報道されない西側の情報戦/なぜ善悪ナラティブが席巻するのか/無視され続けるウクライナの現状/「常識」と情報源

第5章 情報操作とそのインフラ――戦時の情報通信ネットワークをめぐる戦い(小宮山功一朗)
・サイバー空間のインフラ
「物理インフラ」「論理インフラ」「情報」で成立
・戦争と情報通信ネットワーク
転機となった米西戦争/日露戦争と日本軍の工作/「テレビの戦争」と呼ばれた湾岸戦争
・第二次ウクライナ戦争と情報通信ネットワーク
物理インフラをめぐる攻防/ロシアをインターネットから締め出すことはできないが……
/ロシアにおけるソーシャルメディアの遮断/テレグラムは中立な場なのか/物理インフラに必要なのはセキュリティではなくレジリエンス

第6章 民主主義の危機をもたらすサイバー空間――「救世主」から「危機の要因」へ(小宮山功一朗)
・民主主義の危機
ディスインフォメーションを可能にしたサイバー空間/かつて期待されたサイバー空間によるバラ色の民主主義/見逃されたディスインフォメーションの危険性/離散ツールとしての民主主義/力を増大させるテクノロジー企業
・民主主義の守り方
民主主義にかわる統治システムの模索/民主主義のジレンマ/自由な情報の流通の堅持を/民主主義の土台・選挙の防護/力関係を変えるデータの分散/「テクノロジーによる民主主義」への期待

終章 日本の情報安全保障はどうあるべきか
巻末鼎談

 

「はじめに」より

新型コロナウイルスとロシアのウクライナ侵攻、超大型津波ともいうべき二つの大事件が世界を襲ったが、
このいずれの事態においても、偽情報(デイスインフォメーション)の発信と拡散が大きな関心を集めた。
(中略)
ロシアのウクライナ侵攻についても、侵攻直後に「ゼレンスキー大統領が、武器を置いて避難を呼びかけた」という情報がSNSで流されたが、
大統領自身が自撮りで「私はここにいる。国を守る」と国民に訴えかけるなど、
SNSの活用と偽情報の発信が戦争の行方にも影響を与えるほどの状況となっている。
実際、偽情報を流布する行為(ディスインフォメーション・キャンペーン)は、武力を伴わない国家間闘争の一形態として認識されてきている。
この場合の主たる戦場は、我々一人ひとりの「認知」領域、つまり、脳である。アクターは、国家や組織、
個人などさまざまだ。偽情報が「兵器化」されれば、社会や政治の混乱はもちろん、国家間対立の行方も変わってくる。
ロシアは偽情報の発信や情報戦を駆使してきた。2016年の米国大統領選挙においては
積極的かつ組織的にソーシャルメディアなどを駆使し選挙を操作したことで知られている。
ウクライナ侵攻においても、ソーシャルメディアや報道で偽情報を拡散させ、「ウクライナが親ロシア住民を大量虐殺している」
「ウクライナの非ナチ化」といった情報戦を展開してきたが、今次ウクライナ侵攻においては、すぐに嘘と見分けられる偽情報も多く、
情報戦においても質の低下が顕著であり、西側諸国では、「ロシア悪」「ウクライナ善」「ウクライナを支持せよ」というナラティブ(語り)が席巻した。
人間の認知は、間違いなく、現在、そして遠くない将来、国家間闘争において重要な要素を占めることとなり、
認知領域が、国家の安全保障上の一つの焦点となると見られている。しかし日本においては、
偽情報に対する脅威認識が世界の主要国と比較して著しく低いのが現状である。
それは、日本がこれまで海外からの偽情報の深刻な被害にあってこなかったことにほかならない。
(中略)
本書は、認知領域における身近な脅威としての偽情報について、若手専門家3名による立体的考察を試みている。
今後日本に必要となる対策を検討するうえで、海外の事例をはじめ、サイバー空間の利用がもたらす弊害、
民主主義との関わり、政府やプラットフォーマー・民間団体・市民社会・個人が果たすべき役割、規制のあり方など、
多角的視点からの議論が重要となる。本書が世界各地で展開される偽情報の恐ろしさを理解し、海外からの偽情報を見分けつつ、
情報戦を有効に展開することがいかに重要かを認識する手助けとなり、
今後、日本においてディスインフォメーション対策と効果的な情報戦略が進展することを願っている。

 
 
 
 

 

著者プロフィール
小泉 悠 (こいずみ ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター講師。専門はロシアの軍事・安全保障政策。早稲田大学大学院政治学研究科(修士課程)修了後、民間企業勤務、外務省国際情報統括官組織専門分析員、公益財団法人未来工学研究所研究員、東京大学先端科学技術研究センター特任助教などを経て2022年から現職。主著に『ウクライナ戦争』(筑摩書房)、『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)などがある。

桒原 響子 (くわはら きょうこ)

日本国際問題研究所研究員。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了(国際公共政策)。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。2022〜2023年は、マクドナルド・ローリエ・インスティテュート客員研究員としてオタワで活動するとともに、米国シュミット財団(Schmidt Futures)2023 The International Strategy Forumフェローとしても活動。著書に、『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか:日中韓 熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)、『AFTER SHARP POWER:米中新冷戦の幕開け』(共著、東洋経済新報社)。

小宮山 功一朗 (こみやま こういちろう)

一般社団法人JPCERTコーディネーションセンターで国際部部長として、サイバーセキュリティインシデントへの対応業務にあたる。慶應義塾大学SFC研究所上席所員を兼任。FIRST.Org理事、サイバースペースの安定性に関するグローバル委員会のワーキンググループ副チェアなどを歴任した。博士(政策・メディア)。

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