定年バックパッカー海外放浪記

2017年7月9日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年生まれの62歳。横浜生まれ、神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2016.4.6.~5.21 45日間 総費用47万円〈航空券含む〉)

セントルイスのミシシッピー川沿いはラストベルトのショーケース?

 セントルイス中心部から車で10分ほど走るとミシシッピー川沿いに1930年代から1950年代に建設されたと思われる廃工場が並んでいる一画があった。この一角を産業遺産として登録したら観光名所になるのではないか。石材と鉄骨で造られた新古典様式建築の火力発電所だけが辛うじて稼働していた。廃工場群の建屋の煉瓦造りの壁にはカラースプレーで見事なモダンアートが描かれている。

セントルイス近郊のミシシッピー川沿いの廃工場群

 さらに5分ほど走ると高炉を備えた旧式の製鉄所があった。3基の高炉のうち1基しか稼働していないようだ。中国製鋼材との価格競争に敗れ、最低稼働率でなんとか操業を維持しようともがいているのであろう。

セントルイス近郊の工場廃屋。現在は資材倉庫となっている

 この周辺でモーテルを探したが労務者の長期滞在用がほとんどだ。普通の旅行者も受け入れているモーテルもあったが部屋がボロボロで長逗留している様子の夜のご商売のオネエサンたちが昼間からウロウロしていて治安が悪そうなので断念。これがラストベルトの現実だと実感。

元不動産屋のオヤジはトランプ支持

 4月19日(火)。テキサス州の田舎町Amarillo(スペイン語由来の地名で“黄色”を意味する)のモーテルでコーヒーとトーストの朝飯を食べていたら中高年の旅行者が話しかけてきた。彼は御年72歳、元不動産業者で現在はフロリダで暮らしている。別れた奥さんとの間に生まれた長女がテキサス南部の風光明媚な場所に住んでおり、長女一家を訪問する途上という。長女の住んでいる地域が実際に風光明媚で投資対象になるようであれば不動産を購入するとのこと。

見事な新古典様式の火力発電所の建屋

 彼は珍しくトランプ支持を明言。4月6日にシカゴ出発以来トランプ支持者に遭遇したのは初めてだった。当時はまだトランプ氏は予備選挙の真っ最中で指名争いの渦中であった。私が出会った人々は概してトランプ氏については懐疑的であった。

巨大な廃工場。誰が何のためにどうやってスプレーアートを描いたのか

 元不動産屋氏と話してトランプ氏がダークホース的立場から次第に支持を広げて有力候補になりつつある理由が理解できたように思った。彼は中国、日本、韓国からの輸入品が米国の雇用を奪っていると盲信していた。自由貿易により米国の雇用が奪われる → 米国経済が弱くなる → 不動産価格が低迷する、というロジックから保護貿易を唱えるトランプ氏を支持するという。

ミズーリ州セントルイス付近の旧式製鉄所。日本の臨海製鉄所と異なり原料・製品全て鉄道輸送に頼る

 米国では産業構造が高度化して低付加価値の従来型製造業から撤退してオイルシェールなどの新エネルギー産業、IT産業、航空宇宙産業、第三次産業に雇用はシフトしている。現実に雇用統計を見れば失業率は史上最低レベルではないか。いまさら、労働集約型の鉄鋼などの素材産業や家電組立工場などを中国、韓国から呼び戻すことは米国経済全体から考えればマイナスであり合理性を欠くと私は指摘した。

 ところが72歳の御仁は「全米を旅行すれば無数の廃屋となった工場を目にする。60年代は全米の工場が元気に稼働して市民は豊かな生活を享受していた。製造業の衰退がすべての元凶なんだよ」とまったくグローバル経済の深化とIT革命により現在の米国の繁栄が成り立っていることを理解していなかった。

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