2024年12月22日(日)

田部康喜のTV読本

2017年7月26日

 松本清張原作の「黒革の手帖」が武井咲主演で再々ドラマ化された。テレビ朝日制作の第1回(7月20日・毎週木曜夜9時)は、武井が演じる銀行の支店の派遣行員・原口元子が、顧客の匿名口座の預金計1億8000万円を横領して、銀座に自分が経営するクラブのママになる夢をかなえようとする。

(iStock/7maru)

 清張の小説に通底する大きなテーマのひとつは、差別とそれから這い上がろうとする人間の業と悲劇である。今回のドラマ化では、脚本の羽原大介は原作にはない、元子(武井)の過去を描いている。亡くなった父親の借金500万円を背負って、やはり死んでしまった母親に代わって、元子はその借財を毎月コツコツと返済してついに完済する。

 銀行の大取引先である企業経営者のコネで入社した、正規の女性行員が窓口を訪れた、タレントがもめた一部始終をSNSで書き込んだことから事件になる。支店長と次長はその女性行員を守るために、元子と同僚の山田波子(仲里依紗)にその罪を追わせて退職に追い込む。

 銀行を辞める直前に元子は、支店の匿名口座から次々に自分の口座に預金を移し替える。匿名口座は違法である。支店の業績を上げたいという思惑と、開設者の脱税の目的が合致したもの。存在自体が明らかになれば銀行に対する金融庁の処分や、開設者に対する国税庁の査察が入る。

 元子はそれを知ったうえで、横領しても支店長は追究できない、と踏んでいたのである。

痛快に描かれる元子の悪女ぶり

 「黒革の手帖」の歴代のヒロインである元子役では、武井が最も若い。原作の設定も30歳代前半である。山本陽子も大谷直子、浅野ゆう子、そして最近の米倉涼子も原作に近い。

 羽原大介の脚本は、武井咲を起用して「いま」を描こうしている。映画「パッチギ!」(2004年・井筒和幸監督)によって、沢尻エリカをスターダムに押し出した。「フラガール」(2006年・李相日監督)では、福島県いわき市にあるスパリゾートハワイアンズの誕生物語によって、地域に生きる人々の「いま」につながる人生を綴った。


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