「原発全体のリスクは全て下がっているのにタンクのリスクだけが上がっている」「早く何とかしないと全体の作業に支障が出てくる」
7月15日のトリチウム処分政府小委員会による視察で、山本一良委員長(名古屋学芸大学副学長)が増え続けるタンクの現状に対し、懸念を示しました。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2017/07/post_15253.html
東京電力は、福島第一原発から発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)で処理してセシウムなど62種類の放射性物質の除去を続けています。ただし、これは水素の同位体であるトリチウム(三重水素)だけは除去することができません。
そのため、現状はこのトリチウム以外を除去した処理水を福島第一原発周辺にタンクを次々と増設することで溜め続けており、その最終的な処分方法が早急に求められています。
最終的な処分と言っても、トリチウムは事故前の福島第一原発を含めた世界中の原発でも平常時から発生していた物質で、昔から薄めて海洋へ放出をしてきたものです。
トリチウムは半減期12、3年の放射性物質で、非常に弱いエネルギーの放射線(β線)を放出します。しかしながら生体に与えるその影響は極めて小さく、たとえば放射性セシウムと比べて仮に同じベクレル(Bq/kg)であっても被曝の影響は700分の1~300分の1と言われています。
また、厚労省のホームページによれば、水と共に存在していることから生物に摂取されても蓄積せず、すぐに体外へと排出するとされています。
この物質は原子力発電所以外での自然環境中でも毎日大量に発生しており、一般的な水(環境中の水蒸気や地下水、河川や海水、飲料水など)の中に元々存在しています。
ですから極端にこれを濃縮させた場合には当然リスクが生じるものの、自然環境と同水準まで薄めてしまえば、リスクは通常の水と変わらないレベルになります。世界中で行われていることと同様に、適切に希釈して放流する分には安全性の点からは「汚染」という実害は起こりません。
福島第一原発で発生している「汚染水」もまた、現在はALPSでの処理を経て、最終的に希釈することで従来の排水とリスク上ほぼ変わらない対応が出来る「処理水」と呼べる状況になっています。
ですから、NHKなど一部の報道では未だにこの水を「汚染水」「トリチウムを含む汚染水」と表現しているものの、これを「汚染」と呼ぶのは報道として極めて不正確です。「処理水」「処理済水」などと呼ぶのが適切ではないかと考えられます。
この処理水は冒頭の報道にもあったように、希釈しての海洋放出よりもむしろ、このまま希釈せずにため込んで全体の作業に支障をきたしたり、何らかのトラブルで過剰に集中させたそれが一気に流出した場合の方が、現実としてはよっぽどリスクが高い状況にあります。
ところが東電原発事故後の福島では、たとえ「汚染」が起こらなくとも、この処理水を海洋放出することは容易ではないのです。
たとえば東京都・築地市場の豊洲への移転問題における地下水の問題でも見られたように、「安全」と「安心」との間には大きな壁が存在します。安全という事実があっても、その事実が広く市民に共有、理解されなければ安心にはつながりません。ましてや、政治家や報道が率先して不安を煽ってばかりであれば尚更です。
ここで先に、福島に関して現在すでに判っている「安全」を示す事実を述べましょう。福島での内部被曝と外部被曝は当初の想定以上に少なく、世界の平均と比べても高くなかったことが様々な実地調査データから示されています。
食品の安全性についても、一般財団法人持続性推進機構の理事長で、東京大学名誉教授の安井至氏は、
「被災地産品の基準値自体が過剰な基準値。世界基準はコーデックス委員会が示している1kgあたり1000Bqまで。国内に福島第一原発を抱えている日本と、(それが)ない欧州とでは(前提となる条件が)違うのは確かだが、(それでも)日本の1kgあたり100Bqという基準は厳しい」と指摘します。
福島から出荷されている食品は、その厳しすぎる日本の基準値を全てクリアしているだけでなく、現在ではほとんどの食品が検出限界値すら下回っています。たとえば、米の全袋検査においても基準値超えゼロは当然とした上で99.99%以上が検出限界値未満(25Bq/kg未満)であり、現場からは莫大なコストと時間を要している現在の検査体制の縮小を求められている段階です。
【県産米、全量検査在り方協議 夏にも県継続、縮小方向探る(福島民報)】
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2017/06/post_15209.html
原発事故後は、わざわざ「フクシマ」とカタカナ表記にしてスティグマ(負の烙印)を与えてまでの様々な「怪談」が広がりました。
県民が自ら使い始めた訳ではない、このカタカナ表記での「フクシマ」は、そのほとんどが「当事者不在の外から与えられたネガティブなレッテルの押し付け」と共に使われてきました。
当事者を無視して語られた以上、それらは当然実際の福島とは無関係に悲劇や不幸を望む願望や物語で出来ていたために、多くの誤解や偏見の源や象徴となってきたのです。
そのため、カタカナ表記の「フクシマ」を嫌う県民は数多くいます。
一例として、2014年に起こった美味しんぼでの「鼻血騒動」で語られた「フクシマの真実」などもそうでしょう。
しかし、たとえば被曝によって鼻血を出すには一般的な空間線量の数千万倍レベルの大量被曝を一気にしなければ起こらず、しかも鼻以外のあらゆる粘膜からも同時出血して血が止まらなくなり命に関わります。
そんな症例は報告されておりませんし、「福島県内のいくつかの病院で見るかぎり、震災後にも鼻血による受診者は変化していない」という調査結果も複数あります。http://synodos.jp/science/16028
そもそも前提として、「福島では被曝によって起こるリスクの議論の前提となる大量の被曝をした人がいない」ことがすでに明らかになっているのです。
大量被曝の事実が無い以上、鼻血騒動がデマであったのはもちろん、「多発」と何度も報道された甲状腺ガンも当然、実際にはしらみつぶしに検査を強化した結果の多発見でしか無く(過去に韓国や香川県においても、同様の過剰診断による多発見の事例が報告されています)、原発事故によって増加した訳ではないとの報告書が繰り返し国連科学委員会(UNSCEAR)から発表されています。
【UNSCEAR2016年報告書】
http://www.unscear.org/docs/publications/2016/UNSCEAR_WP_2016_JAPANESE.pdf
つまり、福島では今回の原発事故による被曝そのものを原因とする健康被害は起こらず、今後そのリスクが上昇することも無いと言えます。被曝による健康被害リスクという点での「安全」はすでに無数の知見とデータの積み重ねによって確立されているのです。
(ただし、無理な避難やストレスに伴う震災関連死は他県に比べ飛び抜けて多く、生活習慣の悪化による生活習慣病の増加などの健康被害も多数発生しました。被曝そのものによる害よりも、むしろ被曝のリスクを過大視した結果起こった二次被害の検証と原因追及が求められています)。