この熱き人々

2017年11月20日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

世界のトップパイロットが参戦するレースに、アジア人でただ一人参加。正確な操縦技術と強い精神力で年を追うごとに頭角を現してきた。今年ついに年間王者となったその活躍から目が離せない。
 

 2017年6月4日。千葉県幕張(まくはり)の海浜公園に集まったおよそ55000人が固唾を飲んで見上げる空中で、〝究極の3次元モータースポーツ〟とも〝空のF1〟とも呼ばれるレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの第3戦千葉大会が行われた。優勝したのはアジアからマスタークラスに唯一参戦している日本人パイロットの室屋義秀。昨年の千葉大会でも優勝し地元日本開催大会で2連覇、4月の第2戦サンディエゴ大会に次ぐ2連勝の快挙でもあった。

 レッドブル・エアレースは、1人乗りの単発プロペラ機で、高さ25メートルのパイロンで構成されるエアゲートやシケイン(急角度のS字コーナー)のある約5キロのコースを決められた通過方法で飛行し、タイムを競う。最大時速370キロ、ターン時の最大重力加速度10G、1000分の1秒差の操縦技術を競って14人の選手が世界各地を転戦する。年間8大会を通して最も高いポイントを獲得したパイロットが世界チャンピオンの座に就く。

 室屋が拠点とする「ふくしまスカイパーク」は、遠く吾妻(あづま)連峰と蔵王(ざおう)連峰を望む標高400メートルに位置し、周辺に人家もなく風の音さえ聞こえるような静けさの中にある。大きな格納庫には小型機が数機。そこに現れた室屋は、爆音を轟(とどろ)かせて急上昇、急降下、垂直ターンや水平ターンを繰り返しながらゲートを猛スピードでクリアしていくレース中の豪快さからは想像できない、物静かな雰囲気をまとっていた。

 エアレースのコースは海上、陸上、河川上と大会によって違うが、今年7月2日の第4戦ブダペスト大会では、国会議事堂を背景に世界遺産の美しい橋の下をくぐったところにスタートゲートが設置されていた。飛行機が橋の下をくぐる? ほとんどゲームの世界でしかありえないと思っていたことが現実に展開されたのである。

 「橋の下をくぐるのはあの大会だけですが、水面から橋までが10メートルくらいだから、機体は川面から5メートルのあたりを飛ぶことになりますね」

 まさに驚愕の世界。世界遺産の橋をレースに使用することを許可しているということは、間違っても失敗しないというパイロットへの厚い信頼があってのことなのだろう。

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