この熱き人々

2017年8月21日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

宝塚歌劇団のトップスターとして個性あふれる男役を自在に演じ、ゆるぎない人気と実績を築いた。俳優人生の第2幕では人間の多面性や現実を等身大で演じる。

 

 約束の時間ぴったりに、瀬奈じゅんは待ち合わせの場所に姿を見せた。シックな黒のワンピースにゆるやかに編み込んで肩にたらした長い髪、揺れるイヤリングにブレスレット。殺風景だった部屋の雰囲気がその瞬間に変わる。目の前に現れたのは紛れもなく、あでやかな女優、瀬奈じゅんである。

 が、ほどなく華の中からもうひとつの記憶、燕尾服を着こなし男より男らしい瀬奈じゅんが蘇ってくる。すぐ近くに東京宝塚劇場があるせいか、それとも4年近く務めた月組の男役トップとしての印象があまりに強かったせいか。

 宝塚歌劇団を退団してすでに7年、女優として菊田一夫演劇賞や岩谷時子賞奨励賞などを受賞している瀬奈に、いまだに男役の残像を引きずって向かい合うのは大いに迷惑で失礼なことなのかも。でもカッコよかったなあ……。そんな気持ちの行ったり来たりの末に、思わず宝塚時代の話から切り出してしまった。今をさておいて、女性たちをときめかせていたあの頃のことから。

 「やはりこの辺りに来ると宝塚時代のことを思い出しますね。とにかくひたすらカッコいい男役でありたかった。完璧でスキのない男役が私の美学でしたから」

 身長168センチ。基本的に男役か娘役かの希望は出せるが、この長身では娘役は難しい。男役でいくと決めた日からスカートははかなかったと聞いた。

 「私だけではなく、みんなそうですよ。どういう男役像を作っていくかは全部自分で決めるんです。それはとても楽しかったですね」

 理想の男を自分の中で描き、自ら表現していくというのは、普通、女性には全く縁のない世界である。世の中の男性に目を凝らし、女性として心が動く部分を女性の感覚で突き止めて、それらを自分の中で練り上げ、男性としてそれを演じるというややこしいプロセスが必要になるのだろうか。

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