2024年11月23日(土)

World Energy Watch

2017年12月6日

 モデル3の生産で躓いたテスラは、資金調達面でも問題に直面する可能性があるが(『躓くテスラが賭ける中国進出、日本メーカーの切り札は?』)、次から次と新機軸を打ち出すCEOイーロン・マスクは、また新しい資金調達方式を編み出した。25万ドル(約2800万円)の新型ロードスターの予約を開始したが、全額前金の支払いを要求しているのだ。さらに、電気自動車(EV)トラックの装備が充実した最上位クラスの予約も全額前金に条件を変更した。価格は20万ドル(2200万円)だ。

(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

 日本ではEVトラック報道の陰に隠れていたが、スポーツカー、新型ロードスターも同時に発表された。マスメディアでは、その性能ばかりが注目されているが、引き渡しが2020年以降になるロードスターの支払いを今行う必要があるのだ。EVトラックの引き渡しは2019年以降だ。テスラが今集める資金は少なくとも3億ドル(330億円)になるだろう。

 なぜそんなに資金が必要なのか。事業がうまくいっていないからだ。EV自動車事業では40万台以上の予約を集めたモデル3の生産が遅れ、2017年9月期の6億ドルを超える損失に結び付いたが、不調なのは自動車事業だけではない。

 テスラは太陽光発電事とEVとの間にシナジー(相乗効果)があるとし、CEOイーロン・マスクの従妹リンドン・ライブ氏がCEOを務めていた太陽光事業企業ソーラー・シティを買収した。お天気任せの不安定な発電になる再生可能エネルギーの発電量を安定化するには蓄電池は欠かせない。確かにEVとの間に電池というシナジーはあるが、電池の大量生産が実現しなければ絵に描いた餅だ。テスラでは、太陽電池事業がさらに足を引っ張る事態になっている。

蓄電池ビジネスでも躓くテスラ

 石炭の上に浮いている大陸と言われることもあるオーストラリアだが、国内の発電源は石炭、褐炭から徐々に多様化が進み、天然ガス、再エネの比率も上昇している。なかでも、石炭を産出しない南オーストラリア州では風量に恵まれているため風力発電が発電量の3分の1を超えるまでになった。豪州全体と南オーストラリア州の2016年の電源別発電量は図‐1の通りだ。

 風力発電量の増加につれ、発電量の急な変化に天然ガス火力が対応できず停電する事態が発生するようになった。2016年9月に嵐が来襲した際には、強風による送電線の切断が全風力発電所の停止を招き、全州が停電してしまった。この事態を受けイーロン・マスクは、テスラであれば蓄電池を送電系統に100日以内に導入できる。できなければタダにするとツイートし、再エネ導入に悩む世界の多くの政治家から注目を浴びた。

 南オーストラリア州政府は総額5億5000万豪州ドル(470億円)の蓄電装置の導入を含む送電網安定化プロジェクトを立案し、蓄電装置については入札を行った。この結果、2017年7月テスラが12万9000kWhの送電系統に導入される世界最大の蓄電池を落札した
『テスラと中国のバッテリー戦争』)。工事開始後100日目は12月1日に当たったが、テスラの蓄電池は11月下旬に稼働し、イーロン・マスクは約束を果たすことになった。電池の価格は非公開だが、マスクによるとそのコストは5000万ドル(55億円)ということだ。この事業では収益はでておらず、宣伝のために赤字を出したと見られている。しかし、自社製の電池は供給可能な状態になっていない。

 この電池のセルはテスラとパナソニックが共同で操業するギガ・ファクトリーで製造されたものではなく、パナソニック製でもない。韓国サムソンSDI製のセルが利用された。モデル3用のバッテリー製造に遅れが出ているためか、米国内市場へのテスラによる蓄電池引き渡しにも契約からの遅れが生じ、カリフォルニア州などでは、蓄電池の買い手の州政府の補助金獲得に支障が出ている。契約不履行の訴えの可能性も報道されている。


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