家電口論

2018年2月17日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 パナソニックとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker以下BPh)が蜜月になって1年あまり。そのファーストベイビーとでも言うべきモノが誕生した。BPhが配信を行っている「ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール」(以下DCH)、4K、HDRで始まった。

正面入口から見た、フィルハーモニー。独特の雰囲気を醸し出している。

映像化しにくいステージ

 照明を落とした中浮かび上がるステージ。このステージを眼で見たように撮ることは、至難の業。例えば似た状況なのは、「大相撲中継」。技術の塊のようなNHKが撮影、8Kの映像としても用いられているが、肉眼と、映像では「月とすっぽん」ほどの差がある。

 まず土俵の上はあんなに暗くない。とても明るい。その上、力士の多くは、肌もツヤツヤで、赤ちゃんのようだ。絹で出来ている廻しの色は本当に綺麗だし、立行司の衣装は錦でピカピカ光っている。初めての人の多くは、喰いいるように見る。感想は「TVと全然違う!」と言うのが常だ。

 画もそうだが、音も違う。両国国技館は、独特のビューと音を持つ。ソニーのベテラン技術者とご一緒した時、場内に入るなり、「これは今の立体テレビで再現できないですね。まだまだ、すべきことがあることが分かりました。ありがとうございます」と言われたことがある。丸い土俵を四角に囲んだ観客席を含めた見え方はそのくらい独特。

 音もそうだ。みんなが興奮した応援、そして勝負が付いた瞬間、ある程度以上ボルテージが高まると、国技館では、音が滝のように上から下へ降るように聞こえることがある。なかなか、そこまでの勝負にはならないことが多いが、人気の取り組みで聞くことができる。

 よく「臨場感」という言葉が使われるが、いろいろな意味で、まだまだ足りていないのが現実だ。

ベルリンフィルは昔から最先端技術を追ってきた

 この状況は、クラシックのコンサートでも同じ。ただ大相撲と違い、音に関しては、BPh自体がスゴいノウハウを持っている。特に、1955〜1989年、終身指揮者にして、芸術監督、「帝王」とあだ名されたヘルベルト・フォン・カラヤン氏は、自分の芸術を広め、残す技術、今でいうAV技術に多大な興味を持っていた。

 CDを規格するとき、ソニーの大賀典雄氏が、カラヤン氏に「録音時間はどのくらいあれば良いか?」と尋ねると、氏が「ベートーヴェンの交響曲第9番(「合唱」のこと)が収まるように」と答えたため、CDの記録時間は74分となったという有名な都市伝説があるくらいだ。ちなみに、この話は、大賀氏自身が否定しているし、世に74分で収まらない第9番の演奏はそれこそ無数にある。が、カラヤン氏がそう言ったらそうなるくらいの実力者だったのは、紛れもない事実だ。

 カラヤン氏は、音だけでなく、映像も撮った。今ほど鮮明な画像ではない。技術の進歩と一緒に生きた感じの人で、1989年、カラヤン氏が心停止した時、彼を抱きかかえていたのは、次世代映像の話をしに来ていたソニーの大賀氏だったそうだ。

 それはさておき、カラヤンの残された映像は、素晴らしい。それは氏の芸術へのアプローチが分かるからだ。ただ、当時の映像なので、今のようにくっきりと等は見えない。団員の方もそうだ。BPhの団員は、他のオーケストラに行けば、コンサートマスターと行かないまでも、第一奏者レベルだから、そのテクニックも見たいわけだが、それにはちょっと厳しい。

 しかも相撲と同じように、明るめに撮ると白トビすることが多く、抑えめによると陰鬱な画面になってしまう。きれいに、そしてリアリティーを増す音に対して、遅れ気味だ。その傾向は、DCHと銘打ち、コンサートのライブ映像が配信されるようになっても大きくは変わっていない。

 そんな中、2016年もたらされたニュースが、「BPhが、技術提携先を、ソニーからパナソニックに変える」というニュースだ。個人的には、「ソニーはもう技術を追いかけなくなった」と思った瞬間でもあった。

期待がかかる「HDR」

 そして2017年、「DCHでの4K、HDRでの配信」が発表された。4Kという高解像度も期待大だが、それ以上の期待は「HDR」だ。「HDR」とは、High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)の略称。従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)に比べてより広い明るさの幅(ダイナミックレンジ)を表現できる表示技術のこと。

 SDR映像では、先にも書いた通り、明るいところと暗い所が同時に存在する場合、暗部が黒つぶれしたり、明部が白飛びしたりするが、HDRは明るい部分と暗い部分どちらの階調も犠牲にすることなく、より自然でリアルな描写が可能にする。

HDRのサンプル画。暗いシーンでの光スポットは飛び易いがよく抑えられている。

 先ほど、大相撲の映像、コンサートのアーカイブ映像のことを暗いだの、白トビがしているなど言ったが、これが大幅にリアリティを持つ。それが、HDRだ。

最新機材が設置されたフィルハーモニー

 BPhのホームホールのフィルハーモニーは、地図で真上から見ると歪な5角形のコンサートホールだ。それがフィルハーモニー。5角形の中央ステージに対し、360°客席が取り巻く方式のホールで、その形が外観にも影響を及ぼしている。360°の客席は、賛否両論あるが、私は面白いと思う。考えてみてほしい。ステージの正面の席だと、指揮者の背中をずっと眺めていなければならない。しかし、オーケストラ側の席だと、指揮者の動きがよく見える。視点が変わるとわかることが多く面白い。

 

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