食の安全 常識・非常識

2018年2月13日

»著者プロフィール
著者
閉じる

松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

(1)時系列、発生地域のつじつまが合わない

(株)林原が販売しているトレハロース。外見は砂糖と似ており、甘みは砂糖の38%しかないが、でんぷんの老化防止やたんぱく質の変性防止などに働く

 論文はトレハロースが2000年に米国で食品として認められたこと、EUでも2001年に認められたことを記述し、強毒化したディフィシレ菌の流行(アウトブレイク)が2000年ごろから世界各地で広がったことを説明しています。米国での流行に加え、2001年のクウェート、2003年のカナダ、英国、以降の世界各地での発生が図により説明されています。

 しかし、たとえば、カナダでトレハロースが食品として利用を認められるようになったのは2005年です。アウトブレイクが起きた2003年にはトレハロースは販売されていないのです。

 林原は、論文でアウトブレイクが起きたと説明されている地域のうち、イランやパナマ、コスタリカ、クウェートではトレハロースを使う許可は現在もおりていないし、日本から輸出した記録もない、と説明します。これでは、仮説のつじつまがあいません。

2)欧米人の摂取量は、極めて少ない

トレハロースは、ごく一般的な糖であるグルコースが二つ結合したもので、天然のきのこ類や酵母などにも大量に存在する。人が食べると、ほとんどは小腸で分解されてグルコースになり代謝される

 トレハロースは、林原が大量生産法の製造特許を取得している糖類ですが、実は特殊な物質ではありません。ブドウ糖(グルコース)というごく一般的な糖が二つ結合したもので、きのこ類、酵母などに多く含まれる自然の糖類です。

 それらの食品からの抽出や酵母からの製造はとてもコストがかかりました。しかし、林原がでんぷんから微生物の酵素を用いて大量製造する方法を開発。価格を100分の1以下にしました。

 林原は、日本では1995年から食品添加物として販売し始めました。海外でも売るために米国やEUに申請し審査を受け、米国では2000年、EUでは2001年に食品として承認され、販売が始まりました。

 それにより、欧米でもバンバン使われるようになったのか? そうではないのです。しぶる林原に迫ってやっと聞き出しのですが、たとえば米国への輸出量は2003年が173トン、2010年が402トン。現在でも年間1000トンに至りません。林原の特許を利用して米国で製造している企業はなく、ほかの大量製造法も開発されていません。

 計算すると、米国国民は、添加されたトレハロースを2003年段階で1人が1日に1.6mgしか食べていません。

 一方、トレハロースは天然の食品にも含まれています。しいたけやマッシュルームなどのきのこ類、酵母は特に多く、酵母を原材料として用いるパン、ビール、ワイン等にも含まれます。

 林原が、米国人のマッシュルームとパン、ビールの摂取量から、天然由来トレハロース摂取量を推定したところ、1人が1日あたり、百数十mgを摂っていることがわかりました。

 結局、添加トレハロースの20 倍以上を天然食品からとっているのです。なのに、ディフィシレ菌の流行は添加されたトレハロースのせいだ、なんて言えますか?

関連記事

新着記事

»もっと見る