安保激変

2018年3月2日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

ICBM並みの射程と高い命中精度
攻撃対象国以外の誤認を回避した軌道選択も可能

 ただし、それをもって低出力核の具体的な使用局面が想定されていないとは言い切れない。むしろ、NPR全体を通してカウンターフォース重視の運用政策や各国別の抑止戦略が詳述されていることを踏まえると、実際には具体的なターゲティング計画に基づいて、低出力核と弾道ミサイルの組み合わせが必要となる状況が検討されたと考えるのが自然である。

 その一例と考えられるのが、北朝鮮や中国、ロシアが核戦力の主軸とするTEL搭載のミサイルやその防護シェルター、またはICBMを格納している強化サイロや地下施設への攻撃だ。核を用いたカウンターフォースでは、TELやその防護シェルターを撃破する場合、核弾頭を目標上空で起爆させ、核爆発に伴う強力な過圧によって目標を一掃する方法を用いる。他方、ICBMサイロ並みの強化目標を撃破する場合には、核弾頭を目標の地表付近で起爆させるという方式を2回繰り返し、地下施設を機能不全にする方法が想定されてきた。

 しかし、現在ミニットマン3やトライデントD5に搭載されている核弾頭は100~455キロトンと極めて爆発力が大きく、地表核爆発の場合には、放射性物質を含んだ土や粉塵が大量に飛散するフォールアウト被害が発生するため、武装解除に使用する場合のハードルは自ずと高くなってしまう。このような被害を避けるには、爆撃機やDCAによってバンカーバスター(地表貫通)型の核爆弾を用いる方法もあるが、これらは進出速度が遅い上、敵の防空システムへの対処も考慮しなければならず、即時的武装解除には適していない。

 こうした状況において、戦術トライデントは極めて有効なオプションとなる。即応性だけを考慮すれば、常時警戒態勢に置かれているミニットマン3に低出力核を搭載するという方法も考えられなくはないが、ICBMは発射場所が米本土に固定されるため、ユーラシア大陸の目標を攻撃する場合にはロシアの領空を通過したり、三段目のモーターが同領内に落下する可能性がある上、最悪の場合には核攻撃と誤認され、意図せぬ核報復を受ける危険性がある。しかし、SLBMであるトライデントは、ICBM並みの射程と高い命中精度を活かして広大な海洋のどこからでも発射が可能であり、攻撃対象国以外の誤認を回避した軌道を選択することもできる。

 更に、目標地点に接近して発射すれば、着弾までの時間を短縮できることから、敵の防空システムを確実に突破し、タイム・センシティブな移動目標や強化サイロを付随被害を抑えつつ瞬時に破壊する上でも有効である。例えば、トライデントをグアム周辺海域から発射する場合であれば、18分以内に北朝鮮のミサイル基地を攻撃できる計算になる。これは韓国の烏山基地や青森の三沢基地に配備されている戦術航空機が発進準備を整え、北朝鮮上空に到達するよりも早く、迎撃される恐れもないという点で、強力かつ迅速な打撃力となることも念頭に置いておくべきだろう。

TLAM-Nの事実上の後継と位置付けられる
海洋配備型核巡航ミサイル

 第二の計画である核SLCMは、NPR2010で退役が決定されたTLAM-Nの事実上の後継と位置付けられる。開発にあたっては、既に解体されているTLAM-N用核弾頭とトマホークを再度組み立てるのではなく、B61核爆弾の寿命延長プログラムか、現在開発が進められている空中発射型核巡航ミサイル(LRSO)とそれに合わせて設計されているW80-4核弾頭を流用し、潜水艦発射型に改修することが計画されているようである。

 核SLCMの位置付けについては、核軍縮の専門家のみならず、核戦略の専門家の中でも様々な議論がなされてきた。NPR2010の策定に中心的役割を果たしたブラッド・ロバーツ元国防次官補代理や、NPR2018の助言役ともなったフランク・ミラー元大統領顧問らは、TLAM-Nの役割は戦略爆撃機とLRSOの組み合わせや、DCAによって代替可能である上、核・非核両用のミサイルを潜水艦内で扱わなければならない海軍にとって運用・管理上大きな負担を強いることで、潜水艦が果たすべき本来の役割を損ねてしまうとして、その再開発には否定的な見方を示している。

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