安保激変

2018年3月2日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

宣言政策の実効性はいかに

 トランプ政権のNPR2018で示されている全体の方向性は、拡大抑止の提供を受ける同盟国として基本的に評価できるものである。だが、NPRはあくまで米国がとるべき方針を示す文書に過ぎない。掲げられた政策が着実に実行され、最終的に効果的な抑止戦略として機能するかどうかを考える上では、今後の内外の情勢と合わせて精査すべき点も残されている。

 第一の課題は宣言政策の実効性である。NPR2018では、核兵器の使用を考慮する状況を拡大した上で、具体的脅威として名指しした4ヵ国に対して米国の強い決意を示す記述が多く盛り込まれた。しかし、そうした警告にもかかわらず、これらの国が核の脅しを背景とした活動に突き進んだ場合に、米国が宣言通りの行動に出なければ、却ってその信憑性を低下させてしまいかねない。

 第二の課題は、中露との「戦略的安定性」に関連する。戦略的安定性とは、相互脆弱性を背景とした、双方の先制攻撃誘因が働きにくい状態を指す抑止・軍備管理上の概念であり、その維持のためには、相手の核戦力を対象とした攻撃能力やミサイル防衛能力を過度に向上させることは望ましくないと考えられてきた。オバマ政権のNPR2010は、戦略的安定性を中露との関係を考える上での重要な要素と位置づけていたが、NPR2018では同概念や軍備管理への言及が非常に限られており、どのような整理がなされているのか必ずしも明確ではない。

 もっとも、NPR2018では、実戦配備戦略核とその運搬手段の数量について、新START条約が定める水準を変更する必要性は特段語られていない上、戦術トライデントや核SLCMはあくまで戦域レベルの段階的エスカレーションに対応するものと説明されていることからすると、安定性に対する基本的な考え方は変わっていないのかもしれない。しかし米側の説明がどうであれ、中露からすれば、NPR2018の姿勢は、戦略的安定性を軽視し、カウンターフォース能力の向上を通じて相互脆弱性からの脱却を模索するものと映り、両国の核戦力の質的・量的向上を正当化する口実とされる可能性が高い。この点については、まもなく発表される「弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review:BMDR)」において、米本土のミサイル防衛能力がどの程度強化されていくのかといった点も含めて、総合的に読み解いていく必要があるだろう。

 第三の留意点は、核戦力の近代化に対する予算的・技術的裏付けである。米軍が今後30年で核戦力の近代化に必要とする予算は約1.2兆ドルと見積られている。この額は年間国防予算の中では2~3%、ピーク時でも6.4%に過ぎず、連邦予算全体の1%にも満たない。ただし米国の国防予算には、現在でも2011年の予算管理法に基づき、歳出の上限が設けられている。マケイン上院軍事委員長をはじめとする一部の議員はこの制限を一刻も早く撤回すべきと主張しているものの、財政支出をめぐる問題は民主・共和両党にとって双方を批判する政治的レバレッジとなっていることから協調が困難であり、この制約が早期に撤回される見通しは立っていない。

そうなれば、米軍は必然的に調達計画の再調整や優先投資分野の取捨選択を迫られる。特に、核の三本柱のうち2つを有する空軍は、核戦力以外にも、F-35やKC-46A空中給油機など大型の優先投資プログラムを抱えている。その際、非核任務でも重要な役割を果たすB-21やF-35への投資を優先し、ミニットマン3の後継となる地上配備型戦略抑止(GBSD)プログラムが後回しにされることも考えられるかもしれない。

 技術的裏付けとしては、核兵器の信頼性を支える関連インフラの問題がある。米国は冷戦後、新たな核兵器の開発・製造を行っておらず、その心臓部となるプルトニウム・ピットも1989年までに製造されたものに寿命延長措置を続けることで信頼性を維持してきた。本稿では紙幅の関係上詳しく取り上げなかったものの、NPR2018では核爆発に関連する部分(Nuclear Explosive Package)に手を入れず、老朽化した部品の交換・再利用を繰り返す現在の方法が限界に達しつつあることを指摘しており、今後の寿命延長措置と新たな核能力が必要となる場合に備え、現在研究開発用に限って少数生産されているプルトニウム・ピットの年間製造数を2030年までに80個まで引き上げるよう要求するとともに、地下核実験能力の維持を訴えている。こうした背景から、核戦力の近代化をめぐっては、FY2019以降の予算審議における議会の反応が注目される。

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