安保激変

2018年3月2日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

日本への影響は?

 最後に、トランプ政権のNPRが日本に与える影響について述べておきたい。今日のアジアにおける拡大抑止の枠組みは、(1)核・非核からなる柔軟な攻撃能力、(2)ミサイル防衛、(3)演習等を通じた共同コミットメント、そして(4)日米拡大抑止協議や米韓拡大抑止戦略協議体などの協議調整メカニズムの4つの要素から構成されており、その構造自体はNPR2010からそれほど変化していない。戦力態勢に関し、NPR2018はDCAと非戦略核兵器を北東アジアに展開する可能性を否定していないものの、今後更なる深刻化が予想されるA2/AD環境に鑑みれば、DCAを展開可能(deployable)なアセットと捉える続けることは自明視できなくなってくるように思われる。

 それだけに、アジア太平洋地域における米国の核戦力態勢は、潜水艦搭載型システムを重視していく傾向が強まることが予想される。特に、戦術トライデントの即時性や、SLBMよりも相対的に速度が遅く、射程の短い核SLCMの役割を最大限に発揮するためには、日本を含む同盟国が周辺海域のASWをしっかりと行い、これらのアセットが近海での抑止任務に集中できるよう安心を供与していくことが、米国の抑止力といざというときの打撃力を下支えすることになる。

 また、海洋配備戦術核がすべての米艦艇から撤去された1994年以降、米艦艇の日本寄港に伴う「核持ち込み」の問題は、事実上想定しなくてもよい問題となっていた。しかし、将来核SLCMを搭載した潜水艦が再びアジア正面に配備される場合には、この問題が国内政治上の争点として再燃することも考えられる。もっとも、潜水艦搭載型システムの導入にあたっては、展開先の支援に依存しないことが利点として説明されているため、それらを日本を含めた同盟国に寄港させることは原則として想定していないように思われる。また仮に、核任務と非核任務を帯びた潜水艦が混在するような態勢になったとしても、それらを核・非核両方の任務を帯びるB−52が飛来する場合と同じように扱うのであれば、さしたる問題にはならないとも言えるだろう。 

 最後に、拡大抑止協議体制の更なる深化を図る上では、核兵器の使用をも想定した、シームレスな共同作戦計画の立案に参画するハードルをどのように乗り越えるかが課題であろう。

 今日の米軍の核作戦計画は、冷戦期の単一統合作戦計画(SIOP)とは異なり、脅威対象や事態の推移、エスカレーションの烈度に応じて、攻撃を担当するアセットと目標との組み合わせを柔軟かつ迅速に修正していく適応型のターゲティング能力が重視されている。このプロセスは、戦略軍の限られた作戦立案者によって選定・決定される秘匿性の高い情報であり、いずれの同盟国とも共有されていない。こうした計画立案プロセスへの関与を少しでも高めるには、官民学軍がそれぞれの立場から米国を核戦略について理解を深めると同時に、在韓米軍や太平洋軍のみならず、戦略軍を交えた演習を定期的に繰り返し、その課題を常時共有・修正していくことが重要であろう。

 また柔軟な核作戦の計画立案に求められる能力は、通常作戦における敵地攻撃能力や移動目標に対するターゲティング能力と重複する部分もある。その意味では、我が国が持つあらゆる情報・監視・偵察(ISR)アセットを投じて、平時からなるべく多くの情報を取得・蓄積できる態勢を整えておくことが、米国との共同計画調整プロセスに参画する足がかりとなり、ひいては自らの環境に最適な拡大抑止のあり方を整えていく日本なりのテイラード・アプローチとなるはずだ。
 

  
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