WEDGE REPORT

2018年6月6日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

 インバウンドがかつてない盛り上がりを見せる中、地方都市や農村を訪れる外国人も増えている。インバウンドが農村部にもたらす可能性とは。このチャンスをどう生かすべきなのか。グリーン・ツーリズムの現場に詳しいJTB総合研究所主席研究員の篠崎宏さん(51)に聞いた。

農山漁村の美しい景観は外国人誘客のキーになる。ただし交通手段や宿泊施設の不足など、受け入れのための課題も多い。写真は愛媛県宇和島市遊子水荷浦地区の段畑

民泊新法が今後を占う分岐点

JTB総合研究所執行役員で主席研究員の篠崎宏さん。1990年JTBに入社。地域活性化の戦略構築、観光客誘致戦略、新規ビジネスモデル構築などを専門に行う

――農村部を旅する外国人が増えている。観光農園でも年に数千人の外国人客を受け入れるところがある

 長野県上田市にある農家民宿に泊まったり、農業体験したりできる「信州せいしゅん村」は、年に7、8000人の外国人を受け入れている。その多くは中国人で、グループで訪れている。ここは面的に、地域づくりとして旅行客の受け入れをしていて面白い。

 日本の農家民宿は、1994(平成6)年に農村休暇法(農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律)で「農林漁業体験民宿業」としてその運用が認められるようになった。農家民宿の場合、農作業を手伝うなどの体験をすることが条件になっている。こうした体験をしなければならないということが、マーケットの阻害要因にもなってきた。

 日本人の中で、知らない農家の家に行って、農作業の手伝いをしようという人は多くなかったからだ。農村が好きだけれど、農家の懐に飛び込めないというのが、日本人観光客の場合、一番のボリュームゾーンではないかと思う。そのため、農山漁村で自然・文化・人との交流を楽しむグリーン・ツーリズムは、ある程度増えた後、頭打ちになっていた。

 民泊新法(住宅宿泊事業法)が6月から施行される。これが新しい流れを作るのではないかと考えている。農家民宿以外の形で、農村地域で民泊も合法的に展開できるようになるからだ。農家民宿は許可申請が必要だが、民泊は届け出だけで始めることができる。農家民宿のような体験活動も求められない。

――今、地方を訪れる外国人が増えているのはなぜなのか

 これは、日本人の海外旅行の歴史を振り返ると分かりやすい。日本人は、ヨーロッパに行くならまずは「ロン(ロンドン)・パリ・ローマ」を巡る。そのあと、別のところに行こうと、ベルギーに行ったり、ドイツのロマンチック街道に行ったり、イタリアを周遊したりとルートが変わっていく。それと同じことだと思う。

 台湾、中国、香港、韓国など日本を訪れるボリュームゾーンの外国人客が、比較的、訪日旅行をリピートするようになってきた。最初から地方に行く人は少なく、最初は東京、京都で、その後は地方。これは自然な流れだ。訪問先で首都圏の占める割合は年々下がっている。

農村に個人客が来るかがキモ

 農村で外国人の受け入れ態勢が整備されているところは、これからは追い風かもしれない。外国人は地方を訪れるようになっているが、今のところ、農村は団体客の受け入れが多い。これが個人が来るようになるかどうかが、肝心なところだ。

 個人客が農村に行くには、送迎やレンタカーをどうするかといった問題がある。民泊新法の施行で、どれだけ個人客が来るようになるかが、今後の方向性を決める重要な境目になるだろう。

――地方で多い体験型ツーリズムは、欧米系が好む印象がある。訪日旅行客の7割以上を占める東アジアからの観光客も、今後、体験型ツーリズムを楽しむようになるのか

 将来的にはそうなると思う。旅行経験値が上がれば上がるほど、体験型にシフトしていく。中国人の爆買いが一時期かなり報道されたが、日本人もかつて同じようなことをしていた。中国人と日本人が違ったのは、日本人は家電は爆買いしなかったということ。日本人の場合、お酒などはたくさん買っていた。かつて日本人が爆買いした時期はインターネットがなく、今はインターネットがあって、転売がしやすいなどの差はある。

 いずれにせよ、爆買いをしていても、後々買わなくなる。大量に買って、周囲の人に配るというのがなくなっていく。だんだん買い物から、現地で食べるものに関心がシフトする。その後は、体験に関心が移る。お酒を買うなら、酒蔵で実際に仕込んでいるところを見て買いたいといったふうに、モノ消費からコト消費に移っていく。

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