インバウンドがかつてない盛り上がりを見せる中、地方都市や農村を訪れる外国人も増えている。インバウンドが農村部にもたらす可能性とは。このチャンスをどう生かすべきなのか。グリーン・ツーリズムの現場に詳しいJTB総合研究所主席研究員の篠崎宏さん(51)に聞いた。
民泊新法が今後を占う分岐点
――農村部を旅する外国人が増えている。観光農園でも年に数千人の外国人客を受け入れるところがある
長野県上田市にある農家民宿に泊まったり、農業体験したりできる「信州せいしゅん村」は、年に7、8000人の外国人を受け入れている。その多くは中国人で、グループで訪れている。ここは面的に、地域づくりとして旅行客の受け入れをしていて面白い。
日本の農家民宿は、1994(平成6)年に農村休暇法(農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律)で「農林漁業体験民宿業」としてその運用が認められるようになった。農家民宿の場合、農作業を手伝うなどの体験をすることが条件になっている。こうした体験をしなければならないということが、マーケットの阻害要因にもなってきた。
日本人の中で、知らない農家の家に行って、農作業の手伝いをしようという人は多くなかったからだ。農村が好きだけれど、農家の懐に飛び込めないというのが、日本人観光客の場合、一番のボリュームゾーンではないかと思う。そのため、農山漁村で自然・文化・人との交流を楽しむグリーン・ツーリズムは、ある程度増えた後、頭打ちになっていた。
民泊新法(住宅宿泊事業法)が6月から施行される。これが新しい流れを作るのではないかと考えている。農家民宿以外の形で、農村地域で民泊も合法的に展開できるようになるからだ。農家民宿は許可申請が必要だが、民泊は届け出だけで始めることができる。農家民宿のような体験活動も求められない。
――今、地方を訪れる外国人が増えているのはなぜなのか
これは、日本人の海外旅行の歴史を振り返ると分かりやすい。日本人は、ヨーロッパに行くならまずは「ロン(ロンドン)・パリ・ローマ」を巡る。そのあと、別のところに行こうと、ベルギーに行ったり、ドイツのロマンチック街道に行ったり、イタリアを周遊したりとルートが変わっていく。それと同じことだと思う。
台湾、中国、香港、韓国など日本を訪れるボリュームゾーンの外国人客が、比較的、訪日旅行をリピートするようになってきた。最初から地方に行く人は少なく、最初は東京、京都で、その後は地方。これは自然な流れだ。訪問先で首都圏の占める割合は年々下がっている。
農村に個人客が来るかがキモ
農村で外国人の受け入れ態勢が整備されているところは、これからは追い風かもしれない。外国人は地方を訪れるようになっているが、今のところ、農村は団体客の受け入れが多い。これが個人が来るようになるかどうかが、肝心なところだ。
個人客が農村に行くには、送迎やレンタカーをどうするかといった問題がある。民泊新法の施行で、どれだけ個人客が来るようになるかが、今後の方向性を決める重要な境目になるだろう。
――地方で多い体験型ツーリズムは、欧米系が好む印象がある。訪日旅行客の7割以上を占める東アジアからの観光客も、今後、体験型ツーリズムを楽しむようになるのか
将来的にはそうなると思う。旅行経験値が上がれば上がるほど、体験型にシフトしていく。中国人の爆買いが一時期かなり報道されたが、日本人もかつて同じようなことをしていた。中国人と日本人が違ったのは、日本人は家電は爆買いしなかったということ。日本人の場合、お酒などはたくさん買っていた。かつて日本人が爆買いした時期はインターネットがなく、今はインターネットがあって、転売がしやすいなどの差はある。
いずれにせよ、爆買いをしていても、後々買わなくなる。大量に買って、周囲の人に配るというのがなくなっていく。だんだん買い物から、現地で食べるものに関心がシフトする。その後は、体験に関心が移る。お酒を買うなら、酒蔵で実際に仕込んでいるところを見て買いたいといったふうに、モノ消費からコト消費に移っていく。