2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2018年8月28日

ニッチなドローン開発も

 取材時、カフェの隣室では、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの研究者とPWJ、町でドローン開発の話し合いをしている最中だった。これは、大規模災害などで災害救助犬や捜索・救助チームなどと連携して使えるドローンを開発することが目的。その動機を、PWJ代表理事の大西健丞さんはこう話す。

 「災害時のレスキューのための調査で、霧のかかる谷に無人機を入れようとなった場合に、今の性能では難しい」

 人道支援に使えるような安全で精度の高い飛行と活動のできるドローンがないため、自ら開発しようというのだ。町は実証のフィールドになるし、周辺に部品の組み立てのできる工場もあって、開発をするのに適しているという。

 「開発するのは、救助犬を支援するドローン、災害時に物資など大きなものでも運べるドローン、長距離飛べて情報収集できるドローンの3タイプを考えています」

 慶應義塾大学の特任助教でドローン社会共創コンソーシアム副代表の南政樹さんは、こう説明する。現状でもこういう用途に適応できる製品がないわけではないが、高額すぎたり、災害現場で安定して使うには飛行時間が短かったりと課題がある。災害支援のプロと組んで開発することで、現場のニーズに合った、「使える」ドローンをつくり出そうとしている。広島県内にはエンジンに関して高い技術を持つ企業が複数あり、そうした企業との連携も視野に入れる。

 「多くのドローンメーカーはマス向けにプロダクトを出しています。ニッチな用途をターゲットに製品を考えるのが我々の特徴です」(南さん)

 大西さんは「ターゲットとしては、NGOや警察、消防など、億円単位の軍事用ドローンは買えないけれど、市販の汎用品では使えないというところ」と説明する。救助犬の支援以外の用途のドローンの価格は、1機数千万円程度になりそうだが、ニーズはあると見込む。

 町でも高校の魅力化の一環として、地域課題の解決にドローンをどう使えるか学べる体制を整えようとしている。まずはクラブ活動として、ドローンを学ぶ場をつくる。有害鳥獣対策や農業分野などでの活用方法を、生徒に考えてもらいたいという。町の積極策を牽引する入江嘉則町長は言う。

 「中学校卒業後の高校進学で、地元の生徒が半分くらい町外に出るのを、高校の魅力化で地元の高校に地元の子が通って、地域のことも学ぶようにする。一旦は出て行って外で就職するかもしれないけれど、将来は帰ってくる『ブーメラン人材』を育てようとしています」 

 ほかにも、耕作放棄地拡大への対策には、楽天と連携する。後継者の不足に悩む農家と新規就農の希望者をつなぐ仕組みを構築してもいる。

 「神石高原に来ると、いろいろなことがワクワクしてできるという町づくりを目指したい」と入江町長。

 「単に補助金を出して人を呼ぶというのは、自治体間で競争になっているじゃないですか。そうではなく、魅力を感じて神石高原町に来て頂くだとか、神石高原町の人が出ていかずにいろいろな仕事をつくっていくということを目指したい。誰もが挑戦できて、その挑戦をみんなでサポートする町にしたいと取り組んでいます」

 アイデアとやる気があれば誰もが挑戦できる町は、これからも話題の発信源であり続けるに違いない。

  
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