栄養学から考える「食と健康」

2018年9月5日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

地中海食のポイントは、ワインとオリーブオイルではない

松永:オリーブオイル、というと日本人は、脂肪酸組成よりも、あの独特の風味とか苦味とかをもたらす物質、ポリフェノール類などに、なにか特別な効果があるのでは、と期待しているのだと思うのですが。

佐々木:味や風味は食品中の微量成分の影響を強く受けるようです。一方、生活習慣病は毎日かつ大量に食べている栄養素の影響を強く受けます。私たちは食品に味や風味と健康という異なる2つのものを期待しているのに、それを食品のなかのひとつの成分のおかげだと考える傾向があるようです。食品はとてもたくさんの成分や栄養素からできています。食品のなかのどの成分や栄養素に何を期待するべきか、きちんと分けて考えたいものです。

東京大学の研究室で話を聞いた(撮影:監物南美)

松永:「地中海食」が健康によい、というエビデンスは大量にありますよ。地中海食の中核をなすのは、ワインとオリーブオイルではありませんか?

佐々木:地中海食の定義を確認しましたか? 第二次大戦後まもなく、ギリシャ政府がクレタ島住民の貧しさを案じて生活調査をアメリカの財団に依頼し、食生活も調べられました。その結果、政府の心配とは裏腹に「栄養状態はすこぶる良好」というのがわかったそうです。その後、アメリカ人の栄養学者、アンセル・キースがクレタ島を訪れ、島の食事を「地中海食」と名付けました。地中海食の学術的な定義は以降、少しずつ変遷していますが、アメリカ人の食生活を大規模に調査した時の「地中海食」スコアの項目は、表のとおりです。

表2 アメリカ人の食習慣研究で用いられた地中海食スコアの項目
アメリカ人およそ38万人の食習慣を調べ、その後5年間にわたって死亡率とその死因を調べた。その結果、地中海食スコアが高かった人たちほど、循環器疾患(おもに脳卒中と心筋梗塞)による死亡も、がんによる死亡も少なく、その結果として死因を問わない総死亡も低くなっていた
出典:論文4

 イメージとかなり違うでしょう。油については、オリーブオイルの摂取量ではなく、摂取した一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比を調べています。アメリカ人ですら、自分たちの食環境を考えてオリーブオイルではなく、ほかの植物油の摂取も含めた指標にしているのに、日本人が「オリーブオイルでなければ」と考える必要はないでしょう。

 このスコアを用いて、スペインの中年男女1万3000人を対象にした調査も行われており、地中海食スコアが高いほど、将来の糖尿病発症リスクが低いことが明らかになっています。スコアが高い人では、野菜とくだもの多さ、食物繊維の豊富さが目立ちます。

松永:やっぱり、「一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比が大事」と言われても市民にはわかりにくくて、「オリーブオイルが健康に良い」とした方がうんと単純に理解できるから、そんな情報になってしまうのでしょうね。それに、オリーブオイルがいい、という情報が広まった方がお得な人たちがたくさんいる。製油メーカーも、安売り合戦にさらされているサラダ油やキャノーラ油よりオリーブオイルを売った方が儲かります。

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