田部康喜のTV読本

2018年9月19日

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田部康喜 (たべ・こうき)

東日本国際大学客員教授

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHK未解決事件シリーズFile.07(9月2日ドキュメンタリー、8日実録ドラマ)は、警察機構のトップに立つ警察庁長官が狙撃されるという、日本の犯罪史上最も凶悪な事件のひとつに光を当てた力作である。

*画像はイメージです(eAlisa/iStock/Getty Images Plus)

犯行に使用した銃と弾丸はみつからなかった

 オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こした10日前の1995年3月30日、隅田川を望む高層マンションの自宅から1階に降りて、公用車に向かって歩いていた、國松孝次長官が20.92m離れた地点にいた犯人から3発の銃弾を浴びて、全治1年半の瀕死の重傷を負った。銃は、コルトパイソン8インチ、弾丸はホローポイントという特殊な弾丸だった。8インチの銃身は珍しく命中精度が高い。弾丸は、ハーグ条約で戦場での使用が禁じられている、体内に入射したときに破壊的なダメージを与える。

 警視庁は、通常なら捜査に当たる刑事部が地下鉄サリン事件など、一連のオウム真理教による犯罪に忙殺されていたことから、過激派などの監視に当たる公安部が中心となって捜査を進める方針をとった。当時の警視総監の井上幸彦氏は「地下鉄サリン事件は、警視庁を動かなくさせるために起こしたと考えた。組織的に対応できる公安部に捜査させることにした」と語る。

 ところが、刑事部は、別件で逮捕された容疑者が、長官狙撃の犯人ではないか、という確信を深めていく。2002年に名古屋で発生した現金輸送車からの現金強奪事件の犯人である、中村泰(なかむら・ひろし)である。三重県・名張のアジトから、最寄り駅から長官の自宅までの道筋を線で描いた地図や、事件を報道する大量の雑誌や新聞がみつかった。さらに、アジトの捜索でわかった貸金庫から大量の銃器と弾薬が発見された。中村は60以上の偽名を使って、パスポートや免許証を取得していた。

 犯行に使用した銃と弾丸はみつからなかった。それと、犯行後に共犯者が逃亡を手伝ったと考えられるが、その特定ができなかった。これらが、最後まで捜査で発見できなかったことも、未解決事件に終わらせた一因である。

 警視庁捜査一課の刑事として中村の捜査に当たり、係長、管理官、理事官と継続して23年にわたって中村の長官狙撃容疑を固めようとしたのが、原雄一氏である。

 今回の未解決事件シリーズの原案となった『宿命 警視庁長官狙撃事件 捜査第一課元刑事の23年』(講談社、2018年3月)の著者である。論理的かつ客観的な文章は、ノンフィクションとして高い水準にある。オウム真理教犯行説をとる公安部に対して、中村犯行説で対抗し、最後には公安部と刑事部合同による特命捜査班を指揮した。今回のドキュメンタリー編の要所に登場して、事件捜査の深層を証言している。

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