再エネからの電力管理に悩むドイツ
ドイツは、主要国中、最も早く1990年に固定価格買取制度による再エネ支援策を導入した。当初は買取価格が低く設定され再エネ設備導入が進まなかったため、2000年ドイツ政府は買取価格を大きく上昇させた。結果、太陽光、風力発電設備の導入が進んだが、消費者が負担する買取価格、電気料金が大きく上昇することになった。2000年代後半にはドイツ政府は買取価格見直しなどを通し電気料金抑制に乗り出したが、2014年夫婦と子供一人の標準家庭(年間電力消費量3500kW時)の再エネ買取負担額は、年間3万円に達した。
電気料金抑制のため、ドイツ政府は、2014年小規模電源を除きFITを廃止し市場価格にプレミアを支払うFIP制度を導入した。これにより太陽光発電設備導入量のスピードは減速したが、相対的に競争力がある風力発電設備は、洋上風力を中心に図-1(棒グラフ)の通り増加を続けている。その結果、風力発電量は図-1(折れ線グラフ)の通り増えている。2017年の太陽光の発電量は日本の事業用の約4倍、風力は日本の19倍に達し、それぞれドイツの総発電量の6.1%と16.2%のシェアを占めている。
この結果、送電できない再エネ発電量は増加している。ドイツの風力発電設備の70%は風量が大きい北部に建設されている。一方、電力を多く必要とする自動車産業を中心とした工業地帯は南部にある。2011年の脱原発政策により、ドイツ政府は操業していた原発17基のうち建設時期が早かった8基の閉鎖を決めたが、そのうち5基は南部にあった。電気が不足することになった南部に北部の風力発電設備からの電気を送ることが必要になった。
原発が操業していた時点では、北部から南部に大量の電力を送る事態は想定されておらず、送電能力は不足している。ドイツ政府は総延長4650キロメートル(km)の送電線建設と3050kmの送電線設備の更新を2025年までに行う計画を立てたが、住民の反対にあったため2015年政府は新設送電線を地下に埋設することを決定した。しかし、それでも未だ合計7700kmのうち950kmしか建設は進んでいない。
2022年には南部にある今稼働している原発7基が全て廃止される予定だ。その時には、さらに北部の電気を南部に送る必要が生じるが、送電能力の不足により、南部では電力不足が生じる可能性もある。さらに、北部の再エネから発電された電気が隣国に勝手に流れることがあり、周辺国の送電管理を困難にすることもある。ポーランドの送電管理者は2016年に発生したブラウンアウト(電圧低下)は、ドイツから電気が流れ込んできたため引き起こされたとしている。
再エネからの電気を捨てるドイツ
再エネから発電される電気は天候次第で変動し、そのため余分な費用を発生させる。自由化されているドイツの電力市場では、需要予測に基づき前日に発電事業者が発電量と価格を入札し送電管理者が各事業者の発電量を給電指令として決定する。しかし、再エネからの発電量は、しばしば変動する。再エネからの電気は優先して引き取る必要があり、送電管理者は他の電源の事業者に対し前日決定された発電量とは異なる発電量を指示することが必要になる。
例えば、北部の風力発電量が増加し、火力などをあわせた全発電量が送電能力を超えてしまうと、送電管理者は再給電指令として火力発電所に発電量を減らすように要請する必要がある。要請された発電事業者は、想定していた利益が得られず補填を受けることになる。さらに、最優先で引き取られる再エネの電気をどこにも送れないことも発生する。この場合には再エネ事業者に出力制御を行うが、再エネ事業者は得られたはずの利益の補填を受ける。補填を含め再給電指令に係る費用は全て消費者が負担することになる。
2016年引き取りができなかった再エネからの発電量は37億4300万kW時、風力、太陽光発電量の2.3%、捨てられた電気のうち、風力からの電気が95%、太陽光が5%となっている。再エネ事業者に補填として支払われた3億7300万ユーロを含め送電線管理に追加で発生した費用は8億5900万ユーロだった。今後、北部の風力発電設備が増えるためドイツはさらに多くの電気を捨てることになるが、既にドイツ以上に再エネからの電気を捨てているのは中国だ。