Washington Files

2019年1月14日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 アメリカと欧州同盟諸国との伝統的信頼関係がかつてないほど揺らいでいる。安全保障より「経済最優先」をタテに関係各国首脳への露骨な批判もいとわないトランプ大統領の一連の言動に端を発したものだが、「もはや西側同盟関係は死んだ」との指摘すら出始めた。

 「NATO(北大西洋条約機構)はもはや時代遅れだ」―トランプ氏の欧州同盟批判は2017年1月中旬、大統領就任式を待たずに始まった。

(AlexLMX/Gettyimages)

 ニューヨークのトランプ・タワーで英国、ドイツの代表紙特派員とのインタビューに応じ、大統領就任後の所信について以下のような自説を展開した。

 「NATOは個人的には重要とは思うが、加盟している28カ国中まともな防衛分担をしているのは5カ国だけだ。アメリカにとってアンフェアだ……EU(欧州同盟)も事実上、ドイツの傀儡にすぎなくなっている。そのドイツのアンゲラ・メルケル(首相)はきわめて破滅的な間違いを犯している。何百万人もの難民受け入れを決定したことだ。自分は大統領就任後、ドイツの自動車メーカーがメキシコで生産し、アメリカで売ろうとする輸入車に対し35%の関税をかけるだろう……」

 それは“不吉な予言”のようなものだったが、その後、ホワイトハウス入りして以来、大統領が打ち出してきた外交・通商政策は、まさにこうした線にそったものと言えよう。

 まず、NATO批判だが、2017年5月、ベルギー・ブルッセルでの記念式典に臨んだトランプ大統領は、英仏独伊など主要国首脳を前に歯に衣着せず以下のように演説した。

 「究極のところ、加盟諸国は共同防衛のための公平な分担をし、財政的義務を果たすべきである。というのは、(アメリカ以外の)28カ国のメンバー中、23カ国が自らの防衛のために払うべき分担金をいまだに払っていないからだ。こんなことはあってはならないことであり、アメリカ国民、納税者にとってフェアではない。アメリカは過去8年間、他のメンバー国全体を合わせた以上の防衛負担を単独でしてきた。もし、加盟各国が自国のGDPの2%を防衛に振り向けるならば、NATO軍による共同防衛と予備軍のために1190億ドルをプールすることができる。今日の世界の脅威に立ち向かうためには、各国は最低でもGDP2%の防衛支出が不可欠である……」

 トランプ大統領はこのような苦言を呈する一方で、加盟国に対する攻撃に対して全体で共同防衛に当たることを義務付けたNATO憲章第5条の順守については、何ら言及しなかったことから、各国首脳を失望させ、欧州加盟諸国との間に溝を生み出す結果となった。

 大統領は翌2018年7月、NATO首脳会議出席のため再びブルッセルを訪問した際にも、NATO批判を繰り返したほか、今度は中心的メンバー国であるドイツをやり玉にあげ、「ドイツは共同防衛のためGDPの1%ちょっとしか負担していないが、その一方でロシアから天然ガス供給を受けるため、毎年何十億ドルもの巨額の出費を強いられている。まるでロシアの囚われの身同然だが、そのロシアからの脅威に対処するのにアメリカがNATO防衛の義務を負わされるのはおかしい……」などと言明した。

 とくにこの「ロシアの囚われの身」発言はドイツ国内でも大問題となり、早速マース外相が地元紙とのインタビューを通じ「わが国はこれからはホワイトハウスに頼りっきりになるわけにはいかない。今後、アメリカとのパートナーシップを維持していくためには、関係の再調整が必要となるだろう」と述べ反抗の構えを見せる騒ぎとなった。

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