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2019年1月29日

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サイモン・ジャック、ビジネス編集長

イギリスが欧州連合(EU)と合意のないままEUを離脱する「合意なしブレグジット」が、イギリス国内の食料安全保障を脅かし、食品価格の上昇と供給不足を招く可能性があると、小売業界が警告している。

英国小売協会(BRC)が28日に政府に提出した書簡には、食品小売大手各社の経営トップが署名した。イギリスのスーパー大手セインズベリーズとアスダ、ファストフードの米マクドナルドなどは、生鮮食品は備蓄できないし、イギリスはその多くをEU加盟国に依存していると指摘した。

下院では今月15日、テリーザ・メイ首相がEUととりまとめた離脱協定が230票差で否決された。メイ首相が示した代替案は29日に採決される予定だが、これが否決され、対策が決まらないまま3月29日の離脱日を迎えると合意なしブレグジットとなる。

私が取材した小売業者は、合意なしブレグジットで食品供給に大きな混乱が生じれば、店舗の棚が空になってしまうと懸念している。

またBRCの書簡では、食品の選択肢や品質、賞味期限などの維持に「多大なリスク」があると警告した。

「我々の顧客が最初に合意なしブレグジットの現実を目の当たりにするのではと、深く懸念している」

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下院では複数の議員が、メイ首相の協定に対するさまざまな修正案を提出している。

修正案はそのまま議会案になるわけではないが、採決で修正案のいずれかが可決されれば、離脱協定の下院通過には何が必要なのか示されることになる。

小売業界はこれまでブレグジット論争に介入してこなかったが、3月29日が目前となり、声を上げた。

書簡では議員に対し、「合意なしブレグジットの衝撃を避けられる対策を早急に見つけるため」団結するよう求めた。

また、合意なしブレグジットとなった場合に仏カレー港との船の行き来が現在の水準から87%落ち込むという政府統計を引用し、多くの食品が手に入らなくなったり、賞味期限切れとなると警告した。

さらに関税についても、現在、イギリスの輸入食品のうち世界貿易機関(WTO)のルールに則っているのはわずか10%だと指摘。合意なしブレグジットによってWTO基準に復帰すれば、「輸入コストは大きく増加し、食品価格に上向きの圧力がかかることになる」と述べた。


BRCの書簡にはほかにも、マークス&スペンサー、コープ(生活協同組合)、ドイツ系リドルといったスーパー大手のトップが署名している。

書簡では、イギリス国内で消費されている食品の3分の1近くがEU加盟国から来ていると指摘し、欧州とイギリスの食のつながりを強調。

「3月にはイギリス産生鮮食品のシーズンが終わり、この状況はさらに深刻になる」

書簡によると、この時期にイギリスで販売されるレタスの90%、トマトの80%、果物の70%がEU産だという。

「こうした生鮮食品は腐りやすく、農場から店頭まで素早く運ぶ必要がある」とBRCは指摘し、備蓄の難しさを説明している。

倉庫はすでに満杯

BRCは、備蓄できない生鮮食品の輸入には複雑で時間が勝負のサプライチェーンが不可欠だが、合意なしブレグジットはそのサプライチェーンを「著しく阻害される」と懸念している。

また、「冷凍・冷蔵向けの倉庫はすでに満杯」で、これ以上の食品をあらかじめ蓄えておくことも難しいと付け加えた。

「供給業者と緊密に連携し緊急時対応計画を立てているが、我々のサプライチェーンに発生する全てのリスクを軽減することは不可能だ。合意なしブレグジットによる大きな混乱を怖れている」

小売業者は代替ルートを探しているものの、選択肢は少なく、船の数も足りないと述べた。

「恐怖をあおっている」

イギリスの環境・食糧・農村地域省の広報官は、「イギリスの高い食糧安全保障水準は、力強い国内生産や他国からの輸出など多様性に富んだ供給源に支えられている。ブレグジット合意のあるなしに関わらず、その水準は維持される」と述べた。

その上で、政府はこうした障害を阻止するために「洗練された方法」で食品業界と協力すると話した。

BRCの書簡は、下院のEU離脱委員会に所属している議員が政府に対し、合意なしブレグジットという選択肢を排除するよう求めたという報道の後に公表された。

同委員会のヒラリー・ベン委員長(労働党)は、「イギリスは合意なしグレグジットを選択するかもしれないが、それでもEUは混乱を避けるために協力的な態度を示してくれるだろうという提案は、責任感のある政府が掲げる政策とは思えない」と述べた。

一方、同委員会のクレイグ・マッキンリー委員(保守党)は「イギリスをEUから離脱させたくない議員グループが、また恐怖をあおっているだけ」で、この報道を「認めない」と話した。

離脱協定の採決が行われる29日にはまず、数々の修正案に対する投票が行われる。しかしアイルランドのサイモン・コヴェニー副首相は、同国と英・北アイルランドの国境をめぐる「バックストップ(防御策)」に関わる修正は一切認められないと釘を刺している。

バックストップは、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。離脱協定で定められているブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに別の解決策が見つけられなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うと定めている。

しかし北アイルランドがそれ以外のイギリス各地と別扱いになることが問題視されているほか、バックストップが発動すると実質的にイギリス全体がEU関税同盟にとどまることや、イギリスとEU双方の合意がないとバックストップから離脱できないことなども批判されている。

(英語記事 No-deal Brexit 'to leave shelves empty'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/47037516

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