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2010年7月20日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

これまでの社会保障分野の改革は、テクニカルな弥縫策に終始してきた。しかし、人口動態や財政事情を考慮すれば、あと10年も経てば、いまの国民負担率では、現在の水準ですら維持できなくなる。消費税を10%に引き上げても足りず、どこかの段階で大改革をする必要が出てくる。国民は、「すべてを国に任せる」態度を改め、自助努力の度合いを大きくする備えが必要だ。

与野党が言及はした増税

 今回(2010年7月)の参議院選挙は、与党と野党第一党がどちらも将来の増税について踏み込むという、初めての構図が生まれた。菅直人首相が一度は言及した「消費税10%」は公約ではないとなったり、小沢一郎・民主党前幹事長が増税路線を批判したりと、民主党の姿勢は明確ではなかったが、与野党が将来の財政に責任を持つ姿勢を示したことは、大きな前進として評価できる。

 しかし、この選挙戦で最大のテーマとなった「消費税10%」は、以下述べるように、将来の人口動態と財政制約を前提に検討すると、決して十分な税率とは言えない。

 菅政権は選挙戦のさなか、6月22日に「財政運営戦略」を、6月29日には、年金制度改革に関して7つの基本原則を示した。前者と同時に公表された内閣府の「経済財政の中長期試算」からは、2020年に基礎的な財政収支(プライマリーバランス)を黒字化しようとすると、消費税換算で現状より5~8%程度の増税が必要と読み取れる。後者については、「ハードルを低くして、野党に協議の場についてもらう」(平岡秀夫・国家戦略室長の発言、日本経済新聞より引用)ために、かつて民主党が主張していた基礎年金の全額税方式化については盛り込まれなかったが、仮に参院選のマニフェストで示された月額7万円で最低保障年金を導入すると、約20兆円の新規財源が必要との見方もある。これは消費税で賄うなら約8%の増税である。

 菅首相の考え方のベースは、社会保障充実を通じて経済成長につなげていくという「第三の道」だから、消費税引き上げの目的は、財政再建と最低保障年金だけに留まることはない。とすればますます10%では足りなくなる。

年金受給額は経済成長に依存

 菅首相はその所信表明演説で、「強い社会保障」を実現し、「少子高齢社会を克服する日本モデル」を提示するため、各制度の立て直しを進めると発言した。そして、年金制度については、現在の社会に適合した制度を一刻も早く構築することが必要とした。

 確かに、現行の年金制度には問題がある。とりわけ、今後の年金受給額の前提となる経済見通しがあまりに楽観的である。

 現行の年金制度は、国民年金(基礎年金)部分については半額が国庫から支出され、さらに積立金があって積立方式の要素を持ちつつも、それ以外の1、2階部分(国民年金〔基礎年金〕の1階部分と、厚生年金・共済年金などの2階部分)は賦課方式となっている(※リンクの図参照「日本の年金制度体系」:http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/01/01-01.html)。

 積立方式とは自ら年金資金を積み立てる方式であり、賦課方式とは現役世代から徴収する保険料を年金受給者に支払う仕組みのことを指しているが、現役世代の年金保険料納付率低下や少子高齢化の進展などによって現役世代の保険料納付額が減少すると、賦課方式の部分については年金受給者の受取額は減少してしまう。

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