Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年6月5日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏ラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

外科手術、抗がん剤、放射線では多くのがん患者を救済できていない。在米日本人研究者がこの三大療法を超える新たな手法の確立を進めている。

小林 久隆(こばやし・ひさたか):1961年生まれ。京都大学医学部卒業。医学博士。2001年、NIH・NCIシニアフェロー。04年からNIH・NCI分子イメージングプログラム主任研究員。14年、NIH長官賞を受賞。(写真・WEDGE)

 2人に1人が、がんにかかると言われる現代、がんの確かな治療法が喫緊の課題になっている。これまで、主に外科手術、抗がん剤、放射線による3種類の治療が行われてきたが、これだけでは多くのがん患者を救済できていない現状がある。

 4番目の治療法として免疫療法が注目される中、テレビのリモコンでも使われている近赤外線を使って、がん細胞を攻撃、破壊しながら免疫力を回復させる治療法の研究開発が進んでいる。それを主導するのが米国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国立がん研究所(NCI)の主任研究員、小林久隆だ。

 NIHは米国で最も古い医学研究の拠点機関で、ノーベル賞受賞者も多数輩出している権威のある研究施設。小林は1995年からここでがん治療の研究の一翼を担っている。

 米国で2015年から行われた頭頸部(とうけいぶ)の進行がんに対する近赤外線光免疫療法の治験では、15人中14人に効果が認められ、その内の7人はがん細胞が消えた。日本の国立がん研究センター東病院でも18年から頭頸部がんに対する同様の治験が行われ、食道がんでも臨床試験が予定されている。

 小林はもともと放射線を使って診断・治療する医師だったが、ちょうどエイズの患者が増えてきた時期に、免疫が低下したエイズ患者には多くの種類のがんができるのを見て、免疫の重要性を直感した。「紫外線より短い波長の放射線は遺伝子を傷付けるが、近赤外線はそれより長いので遺伝子を傷付けない。近赤外線は死んで壊れたがん細胞が放出する抗原に反応するので、免疫を高めることができる」と考えた。

 そこで何らかの物理エネルギーで薬の活性をがんの患部でのみスイッチオンするのが、解決策になるのではと思いついた。

 そのやり方はこうだ。がん細胞にくっつく特徴がある抗体(たんぱく質)を使って、特殊な暗赤色の光のみで細胞を殺すスイッチが入る化学物質を探し出して抗体と結合させた薬を作った。これを点滴で体内に注射すると、この薬の抗体部分ががん細胞に付着し、そこに近赤外線を当てると光に反応する物質が化学反応を起こして、がん細胞だけを破壊してくれる。がん細胞の周囲の免疫細胞は全く健全なままの状態であるので、壊れたがん細胞を体の免疫が認識して、新たにより強いがんに対する免疫ができる。

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