田部康喜のTV読本

2019年8月29日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 TBS「凪のお暇」(毎週金曜よる10時)は、家電メーカーに勤めていた、さえない元OL・大島凪役に黒木華をキャスティングして、元恋人のエリート営業社員・我聞慎二役の高橋一生との“純愛物語”である。凪が住む古びたアパートの隣人で、イベントのオーガナイザーをしている安良城ゴン(あらしろごん・中村倫也)もからんで、物語はコミカルに展開している。都会の男女が織りなす恋物語の久々の傑作である。

(Westend61 / gettyimages)

 かつての職場で、凪はその場の空気を読んでは、相手に愛想笑いをしながら「わかる」とうなずく。同僚のOLたちからは友達になってもらえないばかりか、陰口をたたかれていた。唯一のひそかな自慢は、エリート社員の慎二(高橋)と恋人であることだった。しかし、社内で慎二が、同僚に凪の悪口をいっているのを物陰から聞いて、慎二と別れて生活をやり直すことにした。

 スマートフォンを捨てて、慎二には居所を知られないようにして、郊外の安アパートの2階にほとんど身一つで引っ越した。毎朝ストレートヘアにするのに苦労していた髪も、地毛のもじゃもじゃのままにして。「凪のお暇」――しばしのお休みである。

 凪に去られて、慎二は彼女を愛していたことに気づくのだった。凪の居所を探し出して、「たまたま近所に用があったついでだ」といっては、立ち寄るが、心とは裏腹に悪口をいうことになって、凪と衝突を繰り返す。帰りの駅に向かいながら、慎二が号泣するシーンの連続が、ドラマの序盤のお約束だった。札幌出張のお土産に買った「白い恋人」の箱を路上に落として、菓子がバラバラになるシーンは、ちょっとした伏線になる。

 凪の新生活は、2階のベランダ越しに挨拶をかわしたゴン(中村)との関係で始まる。彼は、それがあたかも自然のように凪に口づけをするのだった。ゴンは凪をバイクの後ろに乗せて海辺に誘い、公園ではキャンプの簡易コンロでトーストを焼いてくれる。慎二と同僚に隠れるようにして、付き合っていたときには経験できなかった。ゴンのさりげない誘いに滑り込むようにして、凪は男女の関係になる。

 「すっごく気持ちいい。これまでで一番気持ちいい」と凪。

 第5話(8月16日)に至って、慎二の凪に対する怒りが爆発する。ずぶ濡れの雨に打たれながら。

 凪  「ゴンさんといると空気がおいしいの」

 慎二 「相手の気持ちを読みまくって、ありのままになりたいとかいって。ぼろぼろになって、闇に落ちてんじゃねぇか。自分をごまかして生きていくんだよな」

 愛しているのに、悪口しかいえない。相手にはすでに愛はない。不思議な痴話げんかを演じる、高橋一生の魅力が噴き出る瞬間である。

 慎二から凪を救い出したのは、1階に住む白石みすず(吉田羊)とうらら(白鳥玉季)だった。ふたりの部屋で、茶碗蒸しを鍋一杯に使った料理をふるまわれた、凪は自分が自炊をしなくなってから、かなりの日が立つことに気づく。ゴンとの愛欲の日々を過ごしていたからだ。

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