問われる薬剤師の役割
さらに、「後発品シフト」も期待はずれだ。02年4月の診療報酬改定で初めて「後発医薬品」という名前が掲載された。その後も「後発品加算」の導入や処方せん様式の変更など、一連の制度改革がなされたが、後発医薬品の薬剤種類数(入院外・投薬)に占める割合は、20.7%(09年度の社会診療行為別調査)にとどまっている。内訳は院内処方で26.0%、院外処方は18.4%。院内処方よりも院外処方の方が後発品割合が低いということはどういうことだろうか。わが国の医薬分業の存在意義が改めて問われる。
金額ベースでも後発医薬品の割合は院外処方では6.4%で、院内処方の10.4%より4ポイントも下回る。つまり、制度がどう変わろうが大半の薬剤師は医師の処方した薬をそのまま調剤しているだけなのだ。
薬剤師が一定のリスクをとれないということならば医師が後発品への「変更不可」欄に署名のない医薬品は「原則後発品」としてはどうか。そうすれば約1.3兆円の薬剤費が浮くという試算もある。
さらに調剤基本料や薬学管理料等の技術料の見直しも急務だ。というのは、調剤基本料は原則40点(1点=10円)だが、特例で24点の薬局もあるからだ。つまり、現行の健康保険制度は「機会の平等」をうたっていながら「一物二価」になっているのだ。通常、値段が高い方がより良質なサービスを提供するとされるが保険薬局はそうなっていない。
我々の分析では疑義紹介(日数・回数および用法・用量に加え安全性やコンプライアンス・QOLの改善に関する疑義)率および調剤ミス発見率、さらには時間に関する患者満足度などが高い保険薬局の方が調剤基本料が低いことがわかった(詳しくは拙著『国民皆保険はまだ救える(自由工房)』)。これでは努力する者が報われない。
一般に「疑義照会率」が高い薬局は“質の高い薬局”とされる。「医師が天下」とされるわが国の医療界にあって、薬剤師が医師に質すということは滅多にないからだ。薬剤費適正化の観点から、仮に調剤基本料を24点に統一すると、年間約978億円の医療費節減となる。
こうした提案を行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会」に対して行ったところ、当局から「多くの薬局の継続が困難になる可能性がある」との回答が返ってきた。本当にそうか。10年度の保険薬局の損益差額率(直近の医療経済実態調査)は5.5%(個人11.3%、法人5.1%)と、平均0.5%の病院に比べてすこぶる良好である。だとすれば仮に調剤基本料を引下げても、実質1.6%(978億円÷6兆円×100)の値下げで済み、保険薬局の経営は大丈夫ではないか。
現にドラッグストア各社が、処方せんをもとに調剤を行う際、患者負担分に応じてポイントを付けている。日本チェーンドラッグストア協会からは「個人負担分に1%のポイントがついても調剤総金額の0.219%にしかならない」という“抗議文”も頂いているが、これはある程度の値下げが可能という証左だろう。4月からの原則禁止という通知でお茶を濁す厚生労働省も嘆かわしい。
もちろん、ポイント競争が消費者に便益をもたらさないわけではない。しかし、保険薬局は、もっと本質的な「サービスの質」をめぐる競争に踏み込むべきではないか。例えば、今年4月の診療報酬改定の目玉である在宅医療で、患者宅や介護施設にいかに適切に処方薬を届けるかで競うというのも一つの選択肢だ。
今後も“制度ビジネス”の中で増収増益を望むなら、デフレ不況で“なけなしの金”を出している国民に改めて保険薬局がどんな付加価値を提供しているかを示すべきだ。保険薬局の「Value For Money(=お金をかけただけの価値)」、ひいては薬剤師の職能が問われている。
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