外国の水産関係者が即座に指摘する日本の「乱獲」
筆者は、20年以上にわたり輸入業者という立場で、買付けの最前線に立ち、世界の水産業を見て来ています。特に今や世界第二の水産物輸出国(1位は中国)であるノルウェーには、毎年訪問し、成長の現実を実際に見てきました。そこで冷静に日本の水産業と比較してみると、資源管理政策にはっきりとした大きな違いが随所に見られ、それが「成長」と「衰退」を決定づけてしまっていたことに気づいています。その違いとは、上述のオリンピック方式と個別割当方式の違いです。
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日本の漁獲推移表(図1)は、簡略したものが小中学校の地図帳にも載っています。これだけを見ると、日本の水産業は、水揚げの減少とともに衰退していくイメージとなってしまうことでしょう。これをノルウェー、アイスランド、デンマークといった国々の水産関係者に見せると即座に「乱獲」を指摘します。一方で、世界全体の推移は(図2)の通りであり、減少している日本の数字を加えても右肩上がりに増加しています。そして、実際には、世界全体の供給が増加するペースよりも、需要が増加するスピードが速いために、買付相場の上昇が起こり、買付けが出来ない「買負け」という現象が起こっているのです。
成長続ける世界の水産業
日本とは対照的なイメージ
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成長を続ける国々の水産業の現実は、「水産資源の安定と増加」、「労働環境の大幅改善」、「若者にも人気がある産業」、「高い収入と長期の休暇の実現」、「世界の水産物需要増と魚価高を背景に安定した成長」……など、日本とは、まったくの対照的なイメージとなっています。
世界全体では、漁業従事者の数は増えています。内訳としては、養殖業者は増加し、天然の水産物を漁獲する漁業者については、漁船が効率化を求めて大型化していくために減少しています。後者は微減でも、その分、安定し水揚げで様々な産業に雇用機会が生まれていますので、過疎化が進む日本の港町とは事情が大きく異なっています。水産資源を核にして、周辺地域が活性化しているのです。
「世界最大の漁業国」からの転落
日本は、世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を持ち、1972年~88年までの実に17年間も世界最大の漁業国でした。それが84年の1282万トンをピークに水揚げが減少し、2009年はわずか543万トンとなり、その後も減少を続けています。国内の水揚げの減少は、買付けによる輸入で補われてきました。ちょうど1985年のプラザ合意を機に円高が進み、かつ他の国々との買付け競争などほとんど無く、輸入量は順調に年々増加していきました。
買付けに関しては、日本の一人勝ちで、日本の基準が水産物の世界の基準になっていったといっても、おかしくはなかったと思います。輸入業者は、北は、ノルウェー、アイスランド、北米、南は、東南アジア、アフリカ、南米、オセアニアと世界中をくまなく探し回り、多くの価値を創出してきました。ニシンの卵である数の子や、アンコウの肝など、もともと廃棄されていたものが、日本人のアドバイスにより付加価値がつき、地域社会にも貢献してきています。