2024年4月17日(水)

田部康喜のTV読本

2012年5月16日

栗山千明に光をあてる中居正広の演技

 中居のチョコザイには、ほとんどセリフらしいセリフはない。刑事・蛯名役の栗山は、事件現場に行ったり、聞き込みに行ったりする、その行動によって舞台回しを演じるとともに、チョコザイに好意を寄せる感情を表現する。

 栗山の演技力に筆者が魅入られたのは、NHK連続ドラマ「ハゲタカ」の放送記者役であった。大森南朋が演じる元銀行員のファンドの経営者と、経済事件をジャーナリストとして切り込む。栗山の人生と大森の数奇な人生が絡み合うのが、ドラマの魅力だった。

 主演男優と女優が、そのドラマを成功に導く方程式があるとするならば、筆者は男優が女優に光りをあてるような演技がいいのではないか、と考える。あるいは、そうした設定のドラマは観るものをゆったりとした気持ちにさせて、くつろがせるのではないだろうか。 

 オードリー・ヘップバーンのデビュー映画「ローマの休日」で、グレゴリー・ペックが演じた新聞記者役は当初、ケリー・グラントが予定された。脚本を読んだグラントは、物語の主人公が自分の役ではなく、オードリーが演じた王女であることを理由にして断ったという。ペックは即座に引き受けた。

 さらに、映画のタイトルのトップに彼女の名前を出すように製作会社にいったのである。「この映画で彼女はオスカーを受賞する」と予言して。

本来は女優を輝かせる男優・オダギリジョー

 オダギリの「家族のうた」はこころ動かされながらも、打ち切りの報道まで、観ることはなかった。5月13日の第5回を観た。

 相手役の貫地谷しほりもまた、感情の起伏を生き生きと表現できる美貌の若手女優である。NHKの朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」で、落語家を目指す主人公を演じて、豊かな才能をみせて観るものを驚かせた。

 主人公のオダギリの演技が直線的に正面に出て、貫地谷の魅力を光り輝かせていない。打ち切りが決まったのは予定されていた11回の途中であるから、即断はできない。ドラマは終盤にかけて、ふたりの演技がハーモニーを奏でたのかもしれない。

 オダギリはもともと、女優を輝かせる男優である。真木よう子を本格派女優の道の入り口に導いたのは「ゆれる」の共演であった。沢尻エリカを一躍スターにした映画「パッチギ!」でも、酒店の若旦那として重要な役回りを演じている。

 「家族のうた」の打ち切りは惜しい。オダギリと貫地谷のために。(敬称略)

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