世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年9月6日

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 Henry A. Kissinger元米国務長官が、8月4日付Washington Post紙で、中東では民主主義実現という理想主義、米国の戦略的利益という冷徹な計算、そのどちらにも偏り過ぎることなく、両者を上手く組み合わせた外交を展開すべきである、と論じています。

 すなわち、「アラブの春」は当初の歓喜に代わって、当惑するような状況を生んでいる。エジプトでは、民主主義とは程遠い「イスラム同胞団」が政権をとった。米国政府は元来、中東諸国の内政には干渉せず、ムバラクとエジプト軍部とは長らく協力関係を続けてきた。オバマ政権も当初そうしていた。

 ところが「革命」が成立してしまったので、米国政府は難しい選択を迫られている。米国は民主主義に固執したあげく非民主勢力の政権奪取を許し、米国の戦略的利益を害してもいいのか、それとも国内の利害対立の中に分け入ってエジプト軍部のような特定勢力の肩を持つべきなのか。

 米国は、イスラム勢力側が示している穏健な姿勢を公平に評価すると同時に、米国の戦略的利益も明確に主張するという、難しいバランスを取りながら、米国の指示を待っている諸勢力に応えなければならない。

 シリア情勢は、アサド一族のアラウィー派及びそれに与する少数者グループと、多数派であるスンニー派との間の権力闘争である。相対立するグループの数は多く、対立は激しいが、各グループ間の境界は不明確である。米国が支持している反政府側には、アルカイダも入り込んでいる。アサドがいなくなれば、シリアは部族と宗派で千千に乱れ、周辺諸国を不安定化させるかもしれない。

 これまで米国は、たびたび中東情勢に関与してきた。しかし、まず中東はどのようになれば米国の戦略に最も叶うのか、また、米国はそのような状況を作り出す手段を持っているのか、そして中東諸国の発展を促す最良の経済援助の方法はどのようなものか、という根本的な問題に答えを出さなくてはならない。

 米国は、個人の権利を尊重した寛容な市民社会が中東に築かれるよう、努めるべきである。しかし、それをイデオロギー闘争で実現しようとするのではなく、米国の戦略的利益の枠内で行動すべきである。

 中東諸国の諸勢力は、米国の支持を得るためには、米国の利益と価値観を勘案しなければならない。このようにして、現実主義と理想主義を両立させることができるだろう、と論じています。

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 全体のトーンから判断すると、理想主義の行き過ぎを戒め、米国の戦略的利益の重要性を印象づけることに目的があるように見えます。

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