2024年5月13日(月)

未来を拓く貧困対策

2021年12月15日

 仕事をクビになったという話も珍しくないという。失業給付や雇用調整助成金などの対象になりそうなものだが、相談者の多くは、制度の存在は知っていても、会社と交渉することもない。

 「コロナ禍でも生活が保障されるのは、身分が保障された『上級国民』だけ。私たちには関係がないと諦めてしまっているのです」――。そう話す古賀さんは、「でも」と続ける。

 「中小企業の経営者も安泰ではありません。相談者のなかには、建築会社を経営しており、社員に給料を払ったら自分の生活費がなくなってしまったという社長もいる。誰かを責めれば解決するような単純な話ではありません」

 また、外国人からの相談も目立った。三芳町社協の貸付件数は延べ約300件。そのうちの1割から2割が外国人だという。フィリピンやパキスタンなど、アジア系の相談が多かったという。就労や留学などのビザで入国しているケースが多く、日本語によるコミュニケーションを取ることが難しい。英語が通じないことも多く、聞き取りの中でも生活実態を把握することは困難を極めたという。

 三芳町社協では、こうした相談者が特例貸付を受けられるよう、書類の書き方を丁寧に教え、貸付を審査する県社協との橋渡しをした。聞き取りの中で暴力団関係者であることが判明した事例や、給付金と誤解して相談に来た一部の例外を除き、貸付をすることができたという。担当している小林さんは、「相談に来た人をとりこぼさないように、そのことばかりを考えていた」と話す。

なぜ寄付金を集めることができたのか

 コロナ禍で独自の緊急支援策を実施し、殺到する相談者にも丁寧な聞き取りを行う。三芳町社協では、なぜこうした取組ができたのだろうか。結論を言えば、「人がいたから」である。三芳町社協では、社会福祉士や精神保健福祉士などのソーシャルワーカーを常勤で10人配置している。小さな町の社協としては、異例の人員体制である。

 もちろん、職員数が10人を超える社協は珍しくない。しかし、大半の社協では、老人福祉センターや居宅介護支援事業所など、行政からの委託や介護保険などの制度運営のための人員として職員が配置されている。仕様書や法律の縛りがあるため、社協単独の裁量で自由に動くことはできない。また、委託費用も非常勤で回してようやく採算ベースに乗る、ギリギリの水準に抑えられていることが少なくない。与えられた仕事をこなすので精一杯というのが実情なのである。

 これに対して、地域福祉を担うソーシャルワーカーは、いわば〝遊軍〟である。地域住民の福祉の向上に向けて独自のサービスを開発することが仕事の中心となる。福祉大学や地区社協の活動を通じた市民のネットワークづくり、子ども食堂や生活困窮者向けの学習支援事業への立ち上げ支援、独居老人や生活保護利用者の居場所づくりと、その内容は多岐に渡る。

 たとえば、三芳町には、若年性認知症の人たちが集うデイサービスセンター「けやきの家」がある。ここでは、利用者が主体となって「子ども食堂」を運営しており、ひとり親家庭の子どもたちなどとの交流を通じて新しい生きがいをみつけ、自信を取り戻している。

 誰かの役に立ちたいという認知症の人の思いと、「子ども食堂」とのユニークなコラボは、NHK厚生文化事業団による「第1回認知症にやさしいまち大賞」を受賞している。影の立役者が、社協のソーシャルワーカーである。最近では、コロナ禍のオンライン学習支援や、生理用品の配布を始めとした「生理の貧困対策」、最近注目されつつあるヤングケアラーの支援策立案など、守備範囲はますます拡大している。


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