2024年4月27日(土)

未来を拓く貧困対策

2021年12月9日

 前回「生活保護費に迫る コロナ禍「特例貸付」1.2兆円の衝撃」は、コロナ禍の特例貸付が1.2兆円という国の生活保護費予算に匹敵する規模にまで膨らんでいること、返済免除の要件に該当するのは一部であり、返済がはじまる2022年度以降の混乱が予想されることを伝えた。今回は、「必要な人に支援の手は届いているのか」という点から特例貸付を見ていくことにしよう。

(Ivan-balvan/gettyimages)

 まずは特例貸付の相談事例を紹介したい(事例は架空のものである)。あなたが社会福祉協議会(社協)の貸付担当だったと仮定しよう。貸すか、貸さないかはあなたが判断していい。ただし、あなたは貸付金の回収業務も担当しており、焦げつきが生じれば責任を問われる可能性がある。なお、対応時点で返済免除の要件は未確定である。相談者が殺到し、のんびりと対応を検討する時間はない。以下のケースで、あなたはどう判断するだろうか。

・月収40万円の正社員男性。妻子あり。コロナ禍で残業や出勤日数が減り、月収20万円になってしまった。住宅ローンの支払いや私立中学に通う子どもの学費の負担があるため生活ができない。コロナ禍が去れば仕事は元通りになる見込みである。

・月収20万円のシングルマザー。子ども2人。清掃や飲食などのパートを掛け持ちして働いていたが、緊急事態宣言で保育園と学校が休みになり、仕事に行けず居づらくなって退職した。わずかな蓄えがあるが、先行きの見通しはない。

 いかがだろうか。前者の正社員には貸し付けるが、後者のシングルマザーには貸付を迷う人が多いのではなかろうか。もちろん、「困っているなら両方に貸し付けるべきだ」という意見の人もいるだろう。両者に貸さないという判断をした人もいるかもしれない。その是非は問わない。ここで問題にしたいのは、人によって判断が異なる可能性である。

県から「福祉的な配慮に大きく欠ける」と指摘される社協

 今回の特例貸付は、全体の制度設計は厚生労働省が策定したが、貸付をするか否かの最終判断は社協(より具体的には都道府県社協)に委ねられた。判断基準については、貸付要件の緩和方針が示される一方で、免除要件はなかなか示されなかった。

 このため、相談した人にはあまねく貸付をする社協と、厳格な審査をして貸付を却下する社協に判断が分かれた。住んでいる地域によって、貸付が受けられたり、受けられなかったりする格差が生じたのである。

 新聞報道によれば、愛知県は、愛知県社協が審査基準の緩和を求めた国の通知に従わず、従来通りの基準で審査し、約3300人の申請を減額したり却下したりしていたと発表した。県は、「県は福祉的な配慮に大きく欠ける」として改善を指導したという。県の調査によると、県社協は2020年3月下旬から21年1月末までに1万3745件の貸付を決定。うち3000人について貸付を減額、300人について返済が見込めないとして申請を却下した(中日新聞、21年3月10日朝刊)。

 つまり、愛知県では特例貸付の申請者のおおむね4人に1人は貸付額が減額をされたか、もしくは貸付を受けられなかったことになる。こうした対応は、愛知県に特有のものではない。

 コロナ禍で生活が苦しくなった人に向けた全国一斉電話相談会の中心メンバーである猪股正弁護士は、「特例貸付が受けられなかったという相談は、全国から寄せられている。なかには何度も申請を却下された人もいる。非正規で収入が少ない、失業状態で返済の見通しが立たないなど、より生活が厳しい人にしわ寄せがいっている」と語る。

 また、子どもの貧困問題に取り組むNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は、「コロナ禍で特例貸付を受けられないというシングルマザーからの相談が急増した」という。「女性は再就職が難しいから貸付はできない」とはっきり言われた人もいると指摘する。


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