2024年5月10日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年6月12日

 賃金が高くなれば、サービス部門の価格は上昇する。そこで、高賃金国の物価水準(財とサービス価格の平均)は、為替レートで比べれば、低賃金国よりも高くなる。

 しかし、これは生産性が上がると必ず物価が上がることを意味する訳ではない。なぜなら、変動為替制度の下では、財生産の生産性が上がって財の価格が安くなると、貿易を通じた一物一価の法則により為替レートが上昇し、物価の上昇を抑えるからである。

 為替レートの上昇により財の価格は低下し、名目賃金が上がらず(実質賃金は上昇)、サービスの価格も上がらず、財とサービスの平均である物価は下落する。すなわち、生産性が上昇すると物価は低下するのである。

変動相場制と固定相場制の違い

 以上は、変動為替相場制の場合である。では、固定為替相場制の下ではどうなるか。生産性が上がるとまず物価は下がる。その結果、日本の財の国際競争力が向上して輸出が増大する。これは1950年代後半から70年代初まで起きたことだ。

 輸出の増大は貿易摩擦を起こし、円の切り上げに追い込まれた。円を切り上げないためには、物価を上げるという手もある。物価が上がれば、為替は動かさなくても良い。

 どうやって物価を上げるかというと、例えば企業が気前よく名目賃金を上げることが考えられる。名目賃金を上げてコスト高にすれば、財の価格が上がって、輸出は抑えられる。財生産部門の名目賃金の上昇はサービス部門にも波及してすべての賃金が上がり、物価も上がる。

 ここでは、生産性が上がったから物価が上がった訳ではない。為替レートが上がらないようにするために物価を上げたのである。ただし、日本の場合、実際には、物価がある程度上がるにとどまり、為替レートを固定しておけるほどには上がらなかった。

 現在は固定為替制ではないのだから、生産性を上げれば物価は下がり、生産性が低下すれば物価は上がる。もちろん、物価は需要と供給の両面で決るのだから、生産性という供給面だけで物価が決まる訳ではない。


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