EV製造に欠かせない電池の原料供給は中国に大きく依存している。中国は、世界のバッテリーセル(バッテリーを構成する単電池)の60%、カソード(電極)の80%の生産シェアを握る。
EVの電池が必要とする資源量は大きく、IEAによると、世界のコバルト需要の30%、リチウムの60%、ニッケルの10%に相当する。図-4が世界の地域別重要鉱物の供給能力シェアを示している。
世界のEV生産台数はさらに増加することから、必要とする資源量も当然増える。欧州委員会をはじめ主要国は、重要鉱物の中国への依存度削減を狙い自国内、地域内での生産強化を目標として掲げているが、中国が大きなシェアを握り、米欧での生産能力が限定されている重要鉱物の生産増は道はるかだ。
日本も脱中国依存を
日本が温暖化対策を旗印にEV導入を急げば、欧州の二の舞だ。欧州がEV導入を急ぐ背景には産業政策もあるが、ロシアのウクライナ侵攻後には脱強権国家依存、脱中国が新たな課題として浮上した。
闇雲にEV導入ではなく、日本企業が持つ優れた内燃機関技術を活用する道も残さないといけない。欧州と中国でEV導入が進んでも、今世界で売られている車の8割以上は、依然HVか内燃機関を利用する自動車だ。日本企業の内燃機関自動車の技術は、まだまだ世界の多くの地域で必要とされる。
EV導入に際しては、原材料の脱中国依存の具体的な道筋を付けることを優先的に考える必要がある。それが可能でなければ、日本は資源調達の安全保障上大きな問題を抱えることになる。脱炭素の勇ましい掛け声が安全保障を弱体化させてはならない。
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