2024年5月10日(金)

From LA

2023年7月20日

水素燃料の強みと弱み

 さらにニコラの強みはBEVだけではなくFCEVも提供している点で、企業のニーズに合わせて必要な長距離トラックを提供できる点にある。1日に1000キロ以上移動することもまれではない長距離トラックでは、現在の充電インフラは十分とは言えない。

 テスラは独自の急速充電器を提供するとはいえ、導入する企業内に置く以外は、まだ高速道路上などでこうした充電器は利用できない。一般のスーパーチャージャーを利用した場合、テスラが主張する30分で70%回復というのは達成できない数字だ。ダイムラーやボルボでも大型トラックの充電時間は90分から2時間程度となっており、業務の遂行のためBEV導入を控える企業も多いだろう。

 一方でFCEVは給水素時間は短いが、水素インフラが圧倒的に少ない、というデメリットもある。米国では石油大手のシェブロンが水素ステーション設置に向けて動いているものの、その数はカリフォルニア州内でもまだ500〜600カ所に留まっている。

 また水素の価格がディーゼル燃料と比べて高い、という問題もある。自動車用水素価格はカリフォルニア州で1キロあたり30ドル前後だ。カリフォルニア州の場合、1マイルを走行するために必要な燃料費を比較すると、水素が40セントに対しガソリンは22セント、BEVでは7セントとなる。電力ピーク時にテスラスーパーチャージャーを使用したとしても13セントだ。

 ただし、水素推進のための政府による補助金の存在がある。BEVに対しても付与される補助金だが、燃料電池は手厚く、ニコラでは最大でFCEVトラックを導入した場合運用を含めて20万ドル以上の補助金申請の対象となる、としている。

ニコラとテスラではデザインに大きな差

 実際の車両だが、大きさや積載能力はほぼ同じだが、ニコラとテスラではデザインに大きな差がある。ニコラが一般的な運転席と助手席を備えているのに対し、テスラは運転席のみの設置、その分大型のモニターが2つ装備されている。どちらも運転席の後部にドライバーが仮眠を取れるスペースがある。

「TRE FCEV」車内の様子(筆者撮影)

 大型トラックは地上からハシゴを5段ほど上らないと運転席に辿り着けないが、テスラはステップを使用する、などドライバーにより優しい設計と言える。ただしニコラ型でも大きめのモニターは設置されており、従来のトラックデザインに近いことでドライバーからの支持は得やすいかもしれない。

セミの車内の様子(テスラ社プレスキット)

 ニコラの強みはやはりBEVとFCEV両方を持つことで、米政府が目標とする「10年以内に、水素1キロの価格を1ドルにする」が達成できた場合、FCEVはBEVよりはるかに安価になるため、一気に普及する可能性もある。そうなればニコラは間違いなく大型トラック業界のテスラといえる存在に成長するだろう。

   
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