2024年5月13日(月)

World Energy Watch

2023年11月8日

 08年のクネセトでの演説で、エルサレムは2つの国家の首都であるべきだと宣言した。11年には、国連教育科学文化機関(UNESCO)へのパレスチナ加盟に係る投票で、米国やドイツ、カナダが反対票を投じたにもかかわらず、フランスは賛成票を投じ、パレスチナの立場を支持した。

 フランスの中東外交の方向性は、イスラエルとの関係やパレスチナ和平問題への関心に応じて、歴代政権で多少変化している。しかし、イスラエルがパレスチナ人への抑圧を強めたとしても、フランスはイスラエルとの関係を断絶することなかった。

ハマスを敵視するマクロン大統領

 今般のガザ情勢に際して、マクロン大統領はイスラエルに寄り添う姿勢を見せている。ハマスが10月7日にイスラエルへの大規模作戦を実施したのを受け、マクロン大統領はイスラエルのヘルツォグ大統領やネタニヤフ首相と電話会談し、ハマスの奇襲をテロ攻撃だと非難した他、イスラエルの自衛権を支持した。

 24日には、マクロン大統領はイスラエルを訪問し、フランスは「テロとの戦い」でイスラエルに連帯する考えを示した。さらに、イラクとシリアでの対「イスラム国(IS)」有志連合を拡大し、ハマスを攻撃対象に含めることを提案した。対IS有志連合とは、14年に開始された米軍を中心とする多国籍軍の軍事作戦(フランスでの作戦名「シャンマル(CHAMMAL)」)であり、これまで約80カ国が同作戦に参加してきた。

 一方、マクロン大統領はパレスチナ側との関係を断ち切った訳ではない。パレスチナ自治政府との関係維持に努め、ガザ地区への医療支援の提供を検討している。またイスラエルの軍事作戦についても、テロとの戦いは一般市民への無差別攻撃を意味するものではないと述べ、イスラエルによる行き過ぎたガザ攻撃を牽制している。

 こうした状況下、マクロン大統領が、イスラム諸国内で「対イスラエル抵抗運動」とみられているハマスを敵視する背景は、ハマスによるフランス国民の殺害や、ハマスの更なる軍事行動がレバノン情勢の不安定化につながることへの懸念があると考えられる。

 仏外務省は11月4日、ハマスの攻撃で39人のフランス人が死亡し、行方不明9人のうち数人がハマスの人質となっていることを発表した。マクロン大統領は17年の就任以来、フランス国内のテロ対策の延長線として、中東地域への軍事的関与を強めてきている。15年にフランス国内で相次いだテロ攻撃は主に、中東地域で活動する過激派組織の信奉者によるものであったからだ。

 フランスはシリアやイラク、リビアでフランス権益を脅かす存在となり得る過激派勢力の駆逐に注力してきた。そして今回の仏人殺害を機に、マクロン大統領はハマスを過激派勢力と同一視するほど、同組織への脅威認識を高めた。この点から、ハマスに対する国際的包囲網の強化を訴えている。

 またガザ情勢に連動して、レバノンのヒズボラがイスラエルと軍事衝突するなど、レバノン情勢の先行きも懸念される。マクロン大統領はマロン派キリスト教徒の保護を名目にレバノン情勢の安定化を掲げ、レバノンの各宗派間を仲介することで勢力バランスの維持を目指してきた。このため、レバノン社会で支持基盤を有するヒズボラをテロ組織に指定せず、対話を進め、20年には仏大統領として初めてヒズボラ幹部と会談した。


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