2024年5月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月30日

 ジョセフ・ナイが、Project Syndicateに11月1日付けで掲載された論説‘What is the Global South ?’で、「グローバル・サウス」という言葉を用いる場合には、誤解を招きかねないので注意すべきである、と論じている。要旨は次の通り。

(donskarpo/gettyimages)

 「グローバル・サウス」という言葉が今日頻繁に用いられているが、人々がこの言葉を使うとき、何を意味しているのだろうか?

 地理的には、赤道より国土全体が北にある国々に対して、赤道より南にある32カ国を指す。しかし、世界人口の大半は赤道より北におり、「グローバル・サウス」をグローバル・マジョリティと見るのは誤解だ。

 つまり、この言葉は世界を正確に描写するというよりも、一種の政治的スローガンであり、より受け入れ難い用語に代わる婉曲表現として浸透してきた。冷戦時代には、米ソどちらのブロックにも属さない国々は「第三世界」に属すると言われたが、1991年のソ連の崩壊により、この考え方はあまり意味をなさなくなった。「低開発国」という呼称もあったが、この言葉には侮 蔑的な響きがあるので、「 開発途上国」と呼ぶようになった。

 もうひとつの流行語は「新興市場国」であり、インド、メキシコ、ロシア、パキスタン、サウジアラビア、中国、ブラジル、その他数カ国を指す。このうちブラジル、ロシア、インド、中国は、2001年に当時ゴールドマン・サックスのジム・オニールによりBRICと命名された。これに南アフリカが加わり、BRICSとなった。2024年1月1日には新興市場6カ国(アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)が BRICSに加盟する予定だ。

 BRICSは会議体となって以来、しばしば「グローバル・サウス」を代表する組織と見なされることが多い。しかし、政治的な第三世界を代替するものとしては、BRICSは概念的にも組織的にもかなり限定的である。

 メンバーの一部は民主主義国家であるが、多くは独裁国家であり、互いに継続中の紛争を抱えている。例えば、インドと中国、エチオピアとエジプト、そしてサウジアラビアとイランはそれぞれ対立関係にある。

 「グローバル・サウス」という用語の主な価値は外交的なものだ。中国は、北半球の中所得国で世界的な影響力をめぐって米国と競争しているが、自らを、グローバル・サウスの中で重要な指導的役割を担う開発途上国であると表現したがる。

 ジャーナリストや政治家には、高・中・低所得国という用語はなじまず見出しにも適さない。代替となる略語がないため「グローバル・サウス」に頼り続けることになるだろうが、このような誤解を招きかねない用語には注意すべきである。

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 ナイは、地理的概念にこだわって、「グローバル・サウス」という表現と実体の乖離を指摘するが、この言葉は元々厳密な地理的な概念ではなく、一般的に「開発途上国」を指す言葉として用いられて来た。「南北問題」における用法と同様、「南」は開発途上国全体を指す言葉であって、それは単に南側には途上国が、北側には先進国が多いというだけのことだ。


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