2024年5月13日(月)

Wedge REPORT

2023年12月4日

(momomi/gettyimages)

 クマによる人的被害が増えている。北海道や東北、北陸に目立つが西日本にもあり、今年4月から11月末までに212人に達している。過去最多を記録し続けている。それも山の中だけではなく、人里の田畑や人家周辺、さらに都市部までクマの出没が相次いでいるのだ。

 出没理由には、餌となるブナなどの実が東北で大凶作であることや、奥山と人里のバッファーゾーンとなっていた里山が過疎によって荒廃していることなどが指摘される。そして人慣れした“アーバン・ベア”も登場してきた実態を、専門家は指摘している。

 いずれももっともな理由なのだが、一つ解せない点がある。それはクマの生息数に関して誰もはっきりとしたことを言わないことだ。もしクマの数が横ばいないし減少傾向にあったのなら、駆除すれば生息数はより減ることになる。だから「あまり駆除するとクマが絶滅してしまう」という声が出る。そして「かわいそうだから殺すな」「山に餌を運んで置けばいいのでは」とか「森を荒らした人間が悪い」という思いが出てくる。そのためクマが駆除されると、当該地に大量の批判メールや電話が寄せられる。

生息数に関する情報が曖昧

 私は、クマに限らず野生動物の生息数に関する情報が曖昧な点について、以前から気になっていた。保護か駆除かを考える際のもっとも基本的な情報が明確でないのだ。それではクマの出没を防ぐ対策を練るのも難しいではないか。

 そもそも野生動物の生息数は、どのように数えているのだろうか。

 実は、これが難しい。全生息個体を目視で数えるのは通常無理だから、間接的に推定するしかない。とくにクマのように広範囲を移動する動物は調査しづらい。以前は駆除数から割り出していた。クマがたくさん人の目に触れ駆除されるのは、たくさん生息しているはずとする。しかし、これでは駆除すればするほど、生息数は増えてしまう。そこで定めた区画を縦横に歩いて、クマの痕跡(足跡や糞、クマハギなど樹木の傷)を見つけては数え、そこから全体を推測するという区画法がよく使われてきた。

 ただ最近は、調査方法が変わってきた。ヘア・トラップ法(餌の周辺に鉄条網のような毛をひっかける罠を仕掛け、採取した体毛からDNAを抽出して個体識別を行う方法)や、カメラ・トラップ法(赤外線センサー付きのカメラを仕掛けて動く物体を自動撮影し、個体識別することで生息数を割り出す方法)が採用されるようになった。

 こうした方法は、24時間人の気配なしに測定でき、調査者が調査地に足を運ぶ頻度も少なくできる。個体識別するから誤差も減る。まだ全国を網羅するような調査は行われていないが、各地で行われた結果を積み上げると、推定数は大きく変わった。

 たとえば岩手県が遠野市で行ったツキノワグマ調査は、2000年代に区画法からヘア・トラップ法に調査方法を変更している。すると従来の推定数の約2倍の個体が識別されたという。さらに罠にかからなかった個体もいることを考えると、ざっと4倍ぐらいになるのではないかとされた。

 秋田県では、推定生息数を長く1000頭前後としてきた。2016年で1015頭である。ところが2020年の推定は、急に4400頭と増やしている。その理由は明確に示されていないが、推定方法が変わったことも関係しているのだろう。

 環境省はツキノワグマを2010年で3565頭から9万5112頭、ヒグマは北海道庁の調査によるもので2020年に6600頭~1万9300頭という数値を出している。非常に幅があることからも推定するのは難しいことが読み取れる。ただ1990年代の推定値は、ツキノワグマが5000~6000頭、ヒグマが2000頭前後だった。生息数が格段に増えたことは間違いないだろう。


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