2024年5月12日(日)

World Energy Watch

2023年12月4日

 電気の利用が難しい化学、高炉製鉄産業などではCO2を排出しない水素の利用に転換することが必要だ。

 現在水素は、天然ガス、石炭から製造されているが、製造時にCO2が排出される。たとえば、石炭から製造する場合には水素1トン当たり20トン近いCO2排出になる。

 水素製造時にCO2を排出しないためには、再エネあるいは原子力の電源を利用し水の電気分解を行うか、化石燃料から製造する際にはCO2を捕捉し、貯留するCCS装置を設置する必要がある。多くの国は水の電気分解による水素製造を考えている。

 電化の進展に加え水素の利用も、再エネと原子力発電設備の増加をもたらすが、同時に、発電設備製造には重要鉱物と資機材が必要になる。その量はとてつもない。

中国が握る重要鉱物の供給

 1973年の第一次オイルショック以降、主要国は脱石油に努め石炭と天然ガスへの分散が進んだ。その結果、世界一の化石燃料輸出国ロシアへの依存が高まった。

 ロシアのウクライナ侵略により強権国家にエネルギーを依存する怖さを知った主要国は、脱炭素実現にも寄与する自給率向上戦略に注力し始めたが、そこで問題になるのが重要鉱物の調達だ。中国がその供給の大半を担っている。

 脱炭素実現に、クリーンエネルギー設備の原材料を中国から調達するのでは、ロシアに代わる強権国家にエネルギーを依存することになる。

 中国は、12月1日から一部黒鉛の輸出規制を始めたように、重要鉱物の供給を管理する姿勢を鮮明にしている。

 化石燃料のロシア依存度が高く強権国家依存の怖さを身に染みて実感した欧州連合(EU)に加え米英も含めた主要国は、脱中国産鉱物を打ち出している。

 中国は精錬工程を握り精錬後の生産物の供給で大きな世界シェアを握っている。消費国も資源国も中国に依存している。

精錬工程を握る中国

 中国は多くの鉱物を採掘しているが、すべての重要鉱物資源の埋蔵を持ち、鉱石を生産しているわけではない。

 中国が採掘量以上の鉱物の供給を行っている理由は、世界の鉱石の精錬工程を担っていることにある。多くの鉱物の採掘国は環境負荷が高く大量の廃棄物を生じる精錬工程を中国に依存せざるを得ない。

 電池材料のリチウムを例に、中国依存の現状、今後の需給見通し、主要国の脱中国への取り組みをみてみよう。

 豪州は世界最大のリチウム鉱石生産国だが、生産物の大半は中国に精錬のため輸送されている。そのため、鉱石生産量では豪州47%、チリ30%に次ぎ、世界3位のシェア15%の中国が精錬後の生産物の供給では世界シェアの56%を握る。

 他の鉱物でも同様のことがあり、中国は精錬後の鉱物の供給において大きな世界シェアを持った。図-2がいくつかの重要鉱物の中国での鉱石と精錬後の生産シェアを示している。

 今後の再エネ設備とEVの導入に伴い重要鉱物の需要量は急増するとみられている。EUの共同研究センターは30年までにEU内のリチウム需要は現在の9倍から12倍に拡大すると予測している。


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