2024年5月12日(日)

World Energy Watch

2023年12月4日

 国際エネルギー機関は、今後の技術発展により需要量には幅があるものの40年の世界のリチウム需要量を現在の13倍から51倍と想定している。

 この急激な需要増に応えるため、また中国依存度を下げるために、世界最大のリチウム生産国豪州、需要家であるEU、米国などは対策を打ち出した。

脱中国を図る主要国

 豪州は増加するリチウム需要に応えるため西オーストラリアで新鉱山を開発する一方、中国依存を下げるため精錬所の建設を決めた。

 20年末から将来の需要増を織り込み上昇する一方だったリチウム価格は、新鉱山の開発と中国の需要停滞を受け下落しているが、それでも20年価格の約3倍の水準だ(図-3)。長期的には中国外での生産と精錬が必要になる状況に変わりはない。

 消費国でもリチウム生産の動きが顕著だ。米国エネルギー省は、リチウム鉱山開発に係る技術支援に1億2000万ドル(180億円)を支出した。今年9月に国防省はノースカロライナ州のリチウム鉱山の再開にインフレ抑制法の予算から9000万ドル(135億円)の支援を決めた。軍事上もリチウムは重要ということだ。

 欧州委員会はリチウムを含む34の重要鉱物の調達について、サプライチェーンの強化と、中国に依存する供給元の多角化を図るべく、努力目標を設定した重要原材料法案を今年3月発表した。

 EU理事会と欧州議会は今年11月法案について暫定的に以下内容に合意した。今後EU理事会と欧州議会の正式な採択を経て法案は施行される見込みだ。

◎ 年間消費量の最低10%を域内で採掘
◎ 年間消費量の最低40%を域内で加工
◎ 年間消費量の最低25%を域内のリサイクルで賄う
◎ 1カ国からの輸入量を年間消費量の65%以下にする

 既に、欧州ではいくつかのリチウム鉱山の開発計画も浮上している。

 鉱石生産国も消費国も脱中国を進めているが、その実現には多くのハードルがある。一つは、地元住民と環境団体からの鉱山開発に反対する声だ。もう一つはポルトガルでのリチウム鉱山開発にみられる贈収賄疑惑だ。

 ともに開発に遅れをもたらし、中国依存からの脱却を難しくする。加えて、結果として生産数量の抑制と価格上昇につながるだけに、2050年脱炭素に影響を与える。

開発反対運動と贈収賄が阻むグリーンビジネス拡大

 豪州でも消費国でも新鉱山開発に関する反対があり、開発許可の取得も簡単ではない。多くの環境団体は、温暖化対策、脱炭素のために重要鉱物が必要なことは認めながらも、鉱山開発には反対の立場だ。

 鉱山開発はグリーントランジション(脱炭素への移行)ではなく、ブラックトランジションとの言葉も環境団体からは飛び出している。

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