2024年5月12日(日)

World Energy Watch

2023年12月4日

 セルビアで欧州最大のリチウム鉱山の開発を進めていた英豪資源大手リオ・ティントは、環境問題から大規模な反対に遭遇し、セルビア政府は22年1月探査許可を取り消した。

 リオ・ティントは24億ドル(3600億円)の投資事業を諦めておらず、地元理解を得るべく依然努めていると表明している。

 ポルトガルで開発が予定されているリチウム鉱山についても地元では反対運動が活発化していたが、開発許可を巡り首相側近が収賄の疑いで拘留され、首相官邸まで捜索対象になった。アントニオ・コスタ首相は辞任を表明した。

 鉱山開発は疑いの目で見られ、環境団体の反対運動は盛り上がり、開発許可プロセスにはさらに時間が掛かることになる。

 重要鉱物の確保は簡単ではなく、鉱物資源の需要増が予想される中でグリーンビジネス実現の大きなハードルになり始めた。

 日本は同盟国との連携によっても重要鉱物を確保する姿勢だが、同盟諸国が開発に躓く中でどこまで連携が有効なのだろうか。

現実を直視する政策を 

 日本はエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)経由の海外鉱山への投融資、同盟国との連携を通し重要鉱物を確保する姿勢だ。しかし、同盟国での鉱山開発が予定通り進まない状況が明らかになり、日本が期待する同盟国との連携については既に暗雲が立ち込めている。

 将来の大きな需要増を満たす供給増が見えない状況下では、中期的に価格の上昇も予想され、グリーン設備、エネルギー価格の上昇を招く。これもグリーントランジションに影響を与える。

 岸田文雄首相はCOP28 に出席し、対策を取っていない石炭火力発電所の新設を行わないと表明し、GX(グリーントランスフォーメーション)の加速により、排出削減、エネルギーの安定供給に加え、経済成長を図ると述べたと報道された。

 民主党政権時代の2010年の成長戦略には「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」が謳われた。その後の成長戦略でも何度か触れられたテーマだ。

 結果は、大きな国内市場を作り出した中国の製造業を助けただけに終わった。太陽光、風力、EV、蓄電池で世界市場の半分以上を握るのは中国の製造業だ。GXが経済成長を実現できるのであれば、日本は失われた30年間を経験しなかっただろう。

 日本企業は脱炭素のための設備投資を行えるのだろうか。状況の変化を受け、柔軟に政策を見直さなければ、日本経済は脱炭素の前にエネルギー価格高騰を受け浮上できなくなる。

 優先するのは日本経済の強靭化だ。強靭な経済力があれば、日本の技術により費用対効果面から有利な途上国でのCO2削減の手助けができる。中国に依存しないエネルギー供給を確立したうえで、エネルギー価格を抑制することが先決だろう。

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