2024年5月20日(月)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2023年12月22日

集会所で準備運動

「では、時間になったので始めていきましょうか」と佐藤先生が声を出すと、参加者たちは居住まいを正して、先生に注目した。

 先生は最初にスタッフをひとりひとり紹介していったのだが、私のことも「取材で来たにらさわさんです」ときちんと名前から伝えてくれた。さらに参加者たちを見渡して、「○○さん、この前、言っていた腰の調子どう?」「わ、▽▽さんは元気そうじゃない?」などと名前を呼んで、楽しそうに笑顔で声をかけてゆく。

無理なき範囲での準備体操から。

 そのフレンドリーながら細やかな姿勢に感心していると、「この先生は、明るくっていいでしょ?」と、隣に座っていた70代の女性が自慢そうにほほ笑んだ。

 先生はその後、「雨が降るかもしれないので、ここで多めに運動してから外に歩きに行きましょう」と言い、自身が開発にかかわったという運動アプリの動画を正面のプロジェクターに映し出した。その映像を見ながら、全員一緒に準備運動を行う。

 元気いっぱいの人ばかりでなく、杖を突いている人もいたし、思いっきり体を動かすことが難しそうな人もいたのだけれど、それぞれが自分のペースで、座ったまま、あるいは、一部省略したりしながら、自分の動かせるところを楽しそうに動かしている。
男女数は、ほぼ半々……よりは、女性のほうが若干多め。

 佐藤先生は、参加者たちの様子を気にかけながらも、はきはきとよく通る声を出し続け、場を明るくし続けている。

ギャル女子大生も参加

「ギャルと歩こう」のチラシ。スタッフは毎回次回のチラシを準備する

 散歩には、毎回佐藤先生のゼミ生が4~5人参加するそうで、この日は女性4人が来ていた。

 実はこの回には、「ギャルと歩こう」というサブタイトルがつけられていて、ギャル学生が参加していたのだ。それを知ってから準備体操を終えた参加者たちを見ると、なんとなく浮足立っていて、「今日はギャルと歩けるんだよね」「わあ、本当にギャルがいる」と、各地で盛り上がっている。

 実際、来ていた女子大生たちはメイクばっちりの派手めカジュアルで、確かに「わ!」と盛り上がるビジュアルだ。

 一般に、高齢者向け行事に参加する場合には、若くてもシンプル(というか質素)な服装で登場する人が多いようなイメージが私にはあったのだけれど、今回のギャルたちは普段通りのファッションで、話す口調もどことなく「ギャル風」。この場合の「ギャル風」というのは、「よそよそしい感じがしない」という意味で、指導教官であるはずの佐藤先生にも、「そうなんだ~」と時にため口で、まったく壁を作らない。

 その自由なふるまいや見た目が、「この集いでは、誰もが自由にふるまっていいんだよ」という会の姿勢を象徴しているようで、私には小気味よく感じられた。

 この後、散歩タイムに入ると、参加者たちは確かに誰もが自由にのびのびと歩を進めていたのだが、では、どうして彼らはのびのびとすることができていたのだろうか? 

 次回は、散歩タイムの様子とこの取り組みの効果について、報告と考察をする。(後篇に続く)

資料提供:佐藤真治先生

【佐藤真治先生プロフィール】
帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授。専門は臨床運動生理学。東日本大震災の時に「歩く人プロジェクト」を考案。「誰かと一緒に歩くことで新しい何かを創設できる」という信念で、全国で歩くプロジェクトや地域創生プロジェクトに参画。佐藤 真治 (スポーツ医療学科健康スポーツコース) | 帝京大学 (teikyo-u.ac.jp)

【夕焼け散歩】
2019年東京都福祉局からの声かけをきっかけに、佐藤先生と高円寺の銭湯・小杉湯が共同運営する形でスタート。医療や地域の専門家や杉並区の社会福祉協議会、地域包括センター、民生委員などがスタッフとして参加して、月に1~2回、高円寺の集会所等を拠点に開催。多い時には40人強が参加する人気行事となっている。

   
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