2024年12月9日(月)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2023年12月22日

認知症人口は、2025年には700万人になると言われている(厚労省「認知症高齢者の将来推計について」より、認知症施策 |厚生労働省 (mhlw.go.jp))。この連載では、認知症を回避するためにできることはあるのか、また、認知症対策として今、どのようなことが行われているのかなどについて、様々な現場に足を運びながら見ていく。なお、筆者の立場は、「離れて住む実家の母の認知症を防ぐこと」。よって、対策を見ていく際には、「どうすれば自分以外の人にその対策を行ってもらうことができるのか」も合わせて考えていきたい。

高円寺で町散歩

「後ろから車が来るから、もう少し端に寄ってください」「○○さん、いったん止まりましょうか」――。

 住宅街を歩いている長い列に、私は混ぜていただいていた。

 7月半ばの暑い盛り。

 夕暮れには少しだけ早い時刻だが、気温は下がり、日中よりは歩きやすくなっている。

 列にいるのは、50代から90歳近くまでの男女およそ30人。そのほかに、学生4人と、その間の年齢層のスタッフが5、6人ほどついている。

キャプ:夕焼け散歩(写真提供・佐藤先生)

 東京・高円寺で定期的に開催されている「夕焼け散歩」なる行事に、私は参加していた。

 会の存在を知ったのは、「銭湯息つぎプロジェクト」(連載第2回参照『認知症の予防情報はどこにある?』)からの紹介で、銭湯の小杉湯を拠点に集まった高齢者たちが定期的に町を歩いていると聞いて、見てみたくなったのだ。

 始まる30分ほど前にこの日の集合場所である区の集会所に行くと、スタッフらしき男女4~5人が会場を整えていた。パイプ椅子を並べたり、机に受付を作ったり。

 そのうちの、入ってすぐのところにいた女性に声をかけると、彼女は看護師さんでこの行事にはスタッフとして定期的に参加しているという。

「あそこでパソコンをつないでいるのが、引率の先生ですよ」と教えてもらったのが、帝京大学の佐藤真治先生。佐藤先生は、運動生理学の専門家で、運動によるリハビリ効果を研究するほか、全国の町歩きプロジェクト」を牽引しているのだとか。

「夕焼け散歩」発案者の佐藤真治先生(運動生理学)

 挨拶をするために近づいていくと、佐藤先生は準備する手を止めて、「夕焼け散歩は2019年から開催していて、毎回30人程度は集まっているかなあ。常連さんも多いですよ」と、よく通る声ではきはきと教えてくれた。

「まあ、参加してみてくださいよ」というので、先生の作業の邪魔にならぬよう、椅子並べを手伝ったりしていると、参加者たちがポツポツとやってき始めた。

 見ていると、なるほど過去にも参加したことのある人たちが多いようで、スタッフたちと明るく声をかけ合っては、受付の列に並んでいく。そして看護師さんや他スタッフの方に血圧を測ってもらうと、記録し終えた人から順にパイプ椅子に座っていく。

 その様子を眺めていると、列に並ぶわけでもなく立っていた女性がいたので、「この会には、よく参加するんですか?」と話しかけてみた。すると、70代と思しき彼女はパッと嬉しそうな表情になって、「今日は初めての参加なのぉ。私は荻窪に住んでいるんだけど、お友達にここは楽しいよって誘われたので来たのよぉ」と破格の笑顔で、歌うように教えてくれた。彼女によると、その「お友達」は、この日は来れなくなったというのだが、彼女はそんなことには臆せず、周囲と打ち解けようとしていた。

 そのほかの人たちにも参加に至った経緯を聞いてみると、常連となっている銭湯で声をかけられたという人や、参加者に誘われた人、楽しそうに歩いている列を見て声をかけたのがきっかけだという人などがいた。彼らは必ずしも近所に住んでいる人ばかりではなく、バスや電車を使ってわざわざ来るという人もいた。


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