2024年5月20日(月)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2023年12月29日

認知症に対する効果は?

「認知症に関しても、効果はあると思っています。実際、この散歩には認知症の方も何人か参加しておられまして、参加当初は荒々しい気性だった方が次第に穏やかになられたり、介護度が下がるなどの変化を報告してくれた方もいます」

 気性の変化に関しては、「攻撃的になる」などは認知症の「周辺症状」の一つにあげられるもので、先生がおっしゃった「荒々しい気性」というのは、これに該当すると思われる。

 そしてその症状が改善されたのなら、認知症という病気自体が治らなくても、「効果があった」と言っていいのなのではなかろうか。

認知症には中核症状と周辺症状がある(厚労省政策リポート「認知症を理解する」より

「誰かに受け入れられていると感じられるのがいいのかもしれませんね」と、スタッフとして参加していた女性が、静かに補足してくれた。

 確かに、参加してみるまでは、私も人と歩くという行為がこんなにも心地よいものだとは想像してもいなかった。近くに誰かがいるということ、話せば聞いてもらえそうなこと、話しかけてもらえることーーその全てが「受け入れられている」という安心感を呼び起こすのだ。

 散歩の参加費は無料で、運営費は佐藤先生の研究費等で充当している。

 そのためもあって、毎回、先生は参加者の身体測定をしているが、その測定結果も「健康の向上」を証明してくれているという。

 正面切って向き合うわけではない。

 話すことがなくてもかまわない。

 けれど話したくなったときに、横を向けば誰かがいる。

 その誰かは、年齢も健康も同じような人ばかりではない。でもだからこそ、自然と「教えること」「教わること」、そして「労わりあうこと」ができるのかもしれないと思った。

 佐藤先生は月に一度、散歩を引率しているが、人気の余り、他スタッフだけの引率回も設けていて、現在は隔週で行っているという。

 この散歩自体は、認知症のための取り組みではないけれども、認知症対策に確かにつながるものだと私には感じられた。

夕焼け散歩に参加した学生さん

(続く)

資料提供:佐藤先生

【佐藤真治先生プロフィール】
帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授。専門は臨床運動生理学。東日本大震災の時に「歩く人プロジェクト」に参加。「誰かと一緒に歩くことで新しい何かを創設できる」という信念で、全国の歩くプロジェクトや地域創生プロジェクトに参画。佐藤 真治 (スポーツ医療学科健康スポーツコース) | 帝京大学 (teikyo-u.ac.jp)

【夕焼け散歩】
2019年東京都保健福祉局(現東京都保健医療局)からの声かけをきっかけに、佐藤先生と高円寺の銭湯・小杉湯が共同運営する形でスタート。医療や地域の専門家や杉並区の社会福祉協議会、地域包括センター、民生委員などがスタッフとして参加して、月に1~2回、高円寺の集会所等を拠点に開催。多い時には40人強が参加する人気行事となっている。

   
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