2024年5月13日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月12日

 7月には、東南アジア諸国連合(ASEAN)・中国外相が、行動規範策定方針に合意するという「ASEAN首脳会合」前の「お約束」の緊張緩和に向けた動きが発表されたが、8月には、上記の放水銃使用事件後に、まず、ベトナムが南シナ海を軍事拠点化しようとする計画がマニラ・タイムズで報じられ、その後、中国が南シナ海ほぼ全域を自国領と主張する新たな地図を公表し各国の反発を招いた。

 そして、9月の首脳会合で各国に自制を求める議長声明が発表されたが、その後同月、ASEANは南シナ海で初の合同演習を実施した。

 11月、岸田文雄首相がフィリピンを訪問し、レーダー供与と円滑化協定交渉開始を表明した。その後、同月のサンフランシスコAPECでは、習マルコス首脳会談が行われ緊張緩和が模索されたが、12月9日には中国が再度放水銃を使用した。

 以上のように、中国側のフィリピンに対する圧力は、フィリピン側の対抗行動を前進させるだけに終わっているように見える。

注目に値するフィリピンの一手

 ただ、その中でも中国が最近強気で押してきているのは、ウクライナとガザの2正面に対応する中、3正面目の南シナ海で米国がどのような対応を取るかを、得意のサラミ戦術で試しているからに他ならないだろう。流石に台湾はこのような「挑発」を行うには危険な場所なので、中国から見ればより「やり易い」南シナ海を使っている。

 ここまでは、ある程度予測の範囲内であるし、今までの動きは米国の本格的関与の引き金を引くものではないと思う。問題は、中国が今後、どこまで圧力を上げてくるか、そこを慎重に見定めていく必要があろう。

 場合によっては米国では無くASEAN自身が何らかの対応を取ることがより適切な状況になるかもしれない。そして、日本は日ASEAN特別首脳会合の機会等を活用し、南シナ海・東シナ海情勢に対する強い懸念を表明し、ASEANに対する支援の姿勢を明確にすべきだろう。

 最後に、フィリピンの次の一手である。中国の九段線の主張に何らの国際法上の根拠も無いことを明言する歴史的成果を上げた2016年の仲裁裁判の結果を風化させないことが重要だ。

 今回の一連の出来事は、その再評価の格好の機会だろう。前回同様にフィリピンが、中国の留保で仲裁裁判の管轄権が及ばない「領有権をめぐる紛争」ではなく管轄権が及ぶ「海洋法条約の解釈適用」の問題として中国側の行為を提訴すれば、時間はかかるが(前回は提訴から判決まで3年半)、その間、中国の行動への国際的な注目を集められ、また、再度フィリピンが勝訴する可能性も高い。その中で、前回は使われなかった「環境保全」との関係を問うのは、特に欧州の環境団体の注目と支持を得る上で、大変効果的であろう。

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