2024年5月12日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月9日

 アンワル首相率いる与党連合は、222議席中140議席を有し、3分の2近くを得ているので安定しているのかと思いきや、マレーシア政治は本年初より、また混迷の兆しを予感させる動きを見せている。

 正月早々、アンワル首相に反対する与野党の主要政治家が国王と共にアラブ首長国連邦に結集しているとの報道が全土を駆け巡り(「ドバイの政局」と呼ばれた)、政権交代かとの報道まで国内を駆け巡った。

 その直後にクアラルンプールでは、汚職問題で追及されていた与党連合の一翼を担うUMNO党首のザヒド副首相が中心となって、下院議員の任期途中の解散権行使を認めない法案を提起した。支持の薄くなりつつある連立政権の延命策だ。これに対しては、信任を失った首相に居座りを認める法案は、国王の首相任命権を侵害し憲法に背馳するとの議論が喧しくなっている。

自らの政策になると……

 アンワル・イブラヒムは、過去30年、一定の集団の人々の間では確かに希望の星であり続けた。とりわけ欧米的な価値観、世界観に対するアジア人の国家哲学や社会的美徳を再評価し、日本を見習おうという政策を掲げての国造りを20数年にわたり続けたマハティール・モハマッドを反米主義者と指弾する欧米諸国、国際メディア、その影響を受ける国内の諸勢力にとっては特にそうだった。アンワルの舌鋒は1990年代後半のアジアの経済危機の折に最高潮に達した。

 しかしアンワルは、この記事も指摘する通り、マハティールの方針に反対する一事においては特別に鋭敏な改革の主張をしてきたが、自らの政策を語る段になると、途端に焦点が曖昧になり、自己撞着が始まる。汚職体質を改革すると言いながら、代表的な汚職政治家であるUMNO党首を副首相として入閣させ、その訴追を救ったのは象徴的だ。

 改革をしたいというが、一体どんな改革なのか。利益が偏っているというが、どのように再配分するのか。いつまでたっても明らかではない。

 自らが長年求め続けた政権を握った以上、これから国民が彼に期待するのは、もはや声をからしての「改革」の叫びではなく、国民の経済、生活、教育、国防などの具体的施策である。しかし、彼の政治家としての最大の目標は、政権に就いて何らかの政策を実施することではなく、政権を取ること自体なのだろうし、これからも政権を何とか維持することなのだろう。

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