Economist誌1月6日号のコラム‘Anwar Ibrahim, Malaysia’s prime minister, is wasting his opportunity’は、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相について、長年求め続けてきた首相の座に就いたが、折角の機会を無駄にしている、と批判している。要旨は次の通り。
アンワル首相は就任して1年余りになるが、彼の権力への道を象徴する2つのテーマは、第一にどのグループの人々を代表するのか、第二に権力を用いて何をするのか、である。
アンワルは、その経歴のほとんどの期間において、「改革」を唱えてきた。彼は、マレーシアの制度を近代化し、より民主的で政治的干渉を受けにくいものにすると主張してきた。
カネと政治の卑劣な関係を断ち切ると誓い、公平でより生産的な経済を約束した。多民族国家を目指し、都市部の中国系・インド系の少数民族やリベラルなマレー系から支持されている。
しかし、アンワルは移り気で、その政策にいまだ本格的に取り組んでいない。その代わり内輪の支持固めで成果を挙げている。今や連立与党は議会のほぼ3分の2の議席を占めている。しかし、連立基盤を更に拡大しようとするアンワルの試みは、政策面での不愉快な妥協に追い込まれている。
連立政権には統一マレー国民組織(UMNO)も参加している。同党は、2018年に政権から追放されるまで、独立後のこの国の政治を一貫して掌握していた。アンワル自身もこの政権の転覆の一端を担いだ。しかしUMNOの党首であるザヒド・ハミディは背任、汚職、資金洗浄などの数十件の容疑で起訴されていたが(昨年9月に高等裁判所が唐突に不起訴処分)、アンワル政権の副首相の地位に就いている。
アンワルの支持者を落胆させているのは、彼がUMNOを支援していることだけではない。裁判所は依然として政治的介入を受け易い環境にあり、余りにも多くの権力が首相官邸に集中している。闇金融に関する法律の制定は進んでいない。
二極化した社会全体に寛容を行き渡らせるようなことは、ほとんど何もしてこなかった。むしろマレー人の排外主義と宗教性に益々迎合している。
次の選挙でアンワル率いる「希望の同盟」が単独過半数を確保すれば本格的な改革が始まるのかもしれないが、選挙は 2027年まで予定されていない。アンワルの明らかな改革放棄には代償が伴う。
マレーシアの選挙民は政治に対する幻滅を次第に強めている。長年改革を約束してきたその推進者は、今ではむしろ改革への邪魔者のように映っている。
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