2024年5月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月15日

 イスラエル・エジプト和平条約に起源を持つ包摂派ネットワークは、2015年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がサウジの実権を掌握し強力な後ろ盾を得た。サウジは、このネットワークを通じて、国境を越える経済的・技術的相互依存の網を構築し、権力構造を再定義し地域安定の新たなパラダイムを生み出す可能性を秘めている。

 つまり今日、米国がウクライナを代理人として間接的にロシアの能力を低下させた一方で、中東では、イランが、ハマス、フーシ派、ヒズボラ等の代理人を通じてイスラエルや米国、時にはサウジに対して間接的に戦争を仕掛けている。イランは、利益を享受するが何の犠牲も払っておらず、米国、イスラエルおよびアラブの暗黙の同盟国は、イランに対抗する意志も方法もまだ示していない。

 イスラエルが2国家建設のために変革されたパレスチナ自治政府との長期的なプロセスに合意することができれば、2つのネットワーク間のバランスを決定的に変えることができるだろう。抵抗派ネットワークは、自国民を抑え込み権力を維持するための無駄な戦争を正当化することができなくなる。一方、包摂派ネットワークは、拡大し、結束し、勝利することがより容易になる。

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同盟ではない新たな国際的つながり

 ウクライナ戦争とガザ・イスラエル戦争の帰趨が今後の国際秩序に大きな影響を与える可能性があるとの認識は、広く共有されていると考えられるが、この論説が、この2つの危機を2つの対立するネットワークの間のポスト「冷戦後」時代の支配的価値観をめぐる闘争であると踏み込んだ見方をしていることはユニークで興味深い。

 同盟とまでは言えない緩やかな国家・非国家主体の連合を「ネットワーク」と名付けることは、確かに現状を把握する上で便利な概念である。ウクライナについては、2つのネットワークを代表するロシアとウクライナの戦争であるが、中東に関してはイスラエルの包摂派ネットワークへの参加を妨害することがハマスの目的でありイランの利益であり、紛争の原因であったといえるのであろう。

 それぞれのネットワークのメンバーが2つの紛争に関して同一という訳ではないが、共通の要素があり、抵抗派については、「閉鎖的で独裁的な体制の維持に専心する」グループであり、包摂派は、「未来を志向するよりオープンで連結した多元的なシステムを構築しようとする」グループとされ、抵抗派のリーダーはウクライナについてはロシア、ガザについてはイランであり、包摂派は米国をリーダーとするとされる。

 そしてフリードマンは、ウクライナ戦争もガザ戦争もその帰趨がポスト「冷戦後」時代の世界を支配する価値観をめぐる2つのネットワークの地政学的闘争を反映したものとみている。ロシアが撤退すれば良いが、あからさまに国連憲章を踏みにじったロシアの勝利を認めなければならなくなれば、これは核兵器国と核の傘の下にない非核兵器国との間の紛争は、ジャングルの掟で解決する世界となることを意味する。


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