─日銀が「2年で2%の物価上昇」を目標として掲げています。
無理に2%までもっていく必要性が分からない。日銀としては、経済政策をやるにはコンシステンシー(一貫性)が必要であり、おそらく失業率を改善させて完全雇用にするのに2%くらいは必要と見込んで目標に設定し、それを信頼してみんなが行動するといういわゆる合理的期待形成を目指したものであろう。研究上でも有益な考え方であるが、現実には予想は外れることが多い。
安倍首相が今回大胆な金融緩和を実施したのは、日本にとって良かったし、画期的なことであった。
しかし、金融緩和がデフレの改善に効果を発揮している間は続けていればいいが、インフレ的な動きが見られるときは、早急に手を打ちインフレが坂道を逆走するようなことを止めなくてはならない。
─25年先など将来を見据え、政府や日銀に意識してほしい点は。
まずは、貨幣の持つ重要性。経済に対する金融政策の効き方はその時々によって異なる。金融が実体社会にただ付け加えられただけのものなどと考えないでほしい。
さらに長期を見据えれば、日本の人口は減っていく。少子化の抑制や女性労働力の活用が重要。託児所の充実などの対策が考えられるが、ハーバード大学のスーザン・ファー教授は、外国人労働力の導入が有効だと言う。保育を担うような移民を海外から受け入れて子育てはそちらへ頼み、その代わりに日本で教育を十分受けた女性の就業機会を増やす。移民の受け入れは、労働力が増えるという意味だけでなく、日本の女性がもっと働ける環境を促進することにもなる。
─アベノミクスによって大胆な金融緩和に踏み切った日銀ですが、政策姿勢自体を転換したのでしょうか。
日銀は非常に優れた官僚組織であり、命令されたことはやる。ただ、この15~20年間、「デフレは悪くない」「インフレは1%でも許さない」という姿勢で金融政策が行われており、日銀の「家訓」となっているだろう。黒田東彦総裁がトップの間は心配ないが、次の総裁の誕生、あるいは将来を考えれば、独立性が強すぎる今の状態から日銀法を改正しなければならない。物価の安定だけでなく、雇用や経済成長も重大な目標であると日銀が認識して行動することが、国民の幸福につながる。
■WEDGE5月号 創刊25周年記念特集 「25年後を見据えた提言」
英知25人が示す「日本の針路」
◎経済、企業
石黒不二代(ネットイヤーグループ社長兼CEO)「ネットが動かす未来のマーケティング」
浜田宏一(米イェール大学名誉教授、内閣官房参与)「“成熟した債権国”化する日本の今後の針路」
村上太一(リブセンス社長)「起業家育成へ教育・選挙改革を」
ポール・サフォー(未来学者、デジタルフォーキャスター)「シリコンバレーの強みは何か」
ヒュー・パトリック(米コロンビア大学名誉教授)「日本人よ もっと外の世界へ飛び出せ」
入矢洋信(トーヨー・タイ社長)「海外の事業は、まずはやってみる、やらせてみる」
千本倖生(起業家、元イー・アクセス社長/会長)「起業家は描きうるなかで最大の夢を持て」
◎政治、国際関係、安全保障
中西輝政(京都大学名誉教授)「25年後の米中と日本がとるべき長期戦略」
井上寿一(学習院大学長/法学部教授)「高まる“大統領型”首相待望論 将来の日本政治の姿」
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学准教授)「軍事的ジレンマに陥る中国 日米のチャンス」
鈴木英敬(三重県知事)「地方分権の議論は発想が逆」
小谷哲男(日本国際問題研究所主任研究員)「太平洋を“開かれた海”へ “関与”戦略への転換」
山田耕平(レアメタルトレーダー)「草の根国際協力を国益に繋げ」
◎教育、人材活用、医療、司法
松田悠介(Teach For Japan代表理事、京都大学特任准教授)「日本の教育現場に課題解決能力の高い人材を」
菊川 怜(女優)「大学で学ぶということ」
駒崎弘樹(認定NPO法人「フローレンス」代表理事)「“イクメン”がデフォルト化している日本を創る」
亀田隆明(医療法人鉄蕉会・亀田メディカルセンター理事長)「日本は世界の医療産業国を目指せ」
山本雄士(ミナケア代表取締役)「さらば“ブラック・ジャック”名医論」
麻生川静男(リベラルアーツ研究家)「日本人のグローバルリーダーを育てるために」
久保利英明(日比谷パーク法律事務所代表弁護士)「世界に立ち遅れた日本の司法界 改革への3提言」
◎復興、観光、スポーツ、芸能、暴力団
星野佳路(星野リゾート代表)「25年後に大転換迎える日本の観光 旅館が切り札に」
宮本慎也(元プロ野球選手)「野球界に必要な地盤固め」
三遊亭圓歌(落語家/落語協会最高顧問)「古き良き“寄席”の笑い」
溝口 敦(ノンフィクション作家、ジャーナリスト)「衰微する暴力団、台頭する半グレ集団」
西本由美子(NPO法人「ハッピーロードネット」理事長)「福島浜通りへの帰還」
◆WEDGE2014年5月号より
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