香港デモは長期化の様相
学生側の「弱さ」と中国政府へのダメージ


富坂 聰 (とみさか・さとし)  ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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「対話の基礎が揺らぎ、明日、建設的な対話をすることが不可能になった」

 10月9日夜、急きょ行なわれた会見で香港政府ナンバー2の林鄭月娥政務長官は、冒頭のように発言し、予定されていた民主派学生団体との話し合いを延期すると発表した。

 10月10日に予定されていた公開の場での対話は、2017年に行われる行政長官選挙で普通選挙の導入を求めて官庁街などを占拠する学生たちと、彼らを抑え込もうとして対立してきた香港政府側とが問題解決に向けて動き出すプロセスの最初の一歩と位置付けられ、海外のメディアも強い関心をもって見守ってきた。その話し合いが延期されたという情報が伝わると、ビジネス環境の回復に見通しを持ちたいと願う経済界やデモによって商売に大きな損害を被った市民の間に失望が広がったという。

「できるのは学生の説得だけ」

 だが、広東省出身で香港に暮らす研究者は、「たとえ話し合いが実現していたとしても、両者の溝が確認されただけで、混乱の収拾には向かわないことは誰の目にも明らかだった」とこう話す。

 「学生側が求めているのは行政長官の辞任と次の選挙での改革案の撤廃ですが、二つともあまりにもハードルの高い要求です。そもそも選挙の改革案は全国人民代表大会(全人代)の香港地区代表の常務委員会(=常委)で決定されたものですから、香港政府として学生に対し何かを約束できる立場ではない。つまり話し合ったとしても、できるのは学生の説得だけなのです」

 平たくいえば北京の同意なくして何もできない話だということだ。このことは、すでに対話の条件を話し合うなかで、テーマを「選挙制度改革に関する憲制上の基礎と法律規定」とすることを香港側が提案したことにも表れている。

現職にしがみつくであろう長官

 一方、行政長官が辞任することで事態の収拾を図るという可能性はないわけではないのだが、これも梁振英の事情を考えれば簡単ではないという。

 「デモが起きて以降、12日間以上も雲隠れをしている梁振英に対しては、すでにリーダーとしての資質が問われています。その上、その行政長官に対してはオーストラリア企業UGLが香港の不動産企業DTZを買収するに際して発生した長官に対する報酬に関する疑惑が浮上し、立法会の民主派議員が攻勢を強めています。北京の言いなりになって改革の芽を摘み、学生たちの催涙弾を使ったという汚名に加え、前回の行政長官選挙では“違法建築”を理由に相手候補を攻撃して当選したのに、当選後は自分も違法建築をしていたことが発覚するなど彼の名は地に落ちている。香港での未来が不透明なだけに現職にしがみつくのではないかと考えられます」

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著者

富坂 聰(とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

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