食の安全 常識・非常識

2015年6月24日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

PHOs禁止により、数千人の命が救われる

 FDAは、専門家を招集して検討し、トランス脂肪酸の摂取量はできるだけ減らした方がいい、という結論に達し、2013年11月に方針を打ち出しました。パブリックコメントを経て、この6月にPHOsの3年後の禁止を正式決定しました。FDAは、この措置によりアメリカ国内で数千人の命が救われる、としています。

 PHOs禁止後の代替法、つまり水素添加によって植物油を固形、または半固形にするのではなく、ほかの方法で油を固形化する技術はもう開発されています。また、植物油の原材料の大豆を、遺伝子組換えやほかの育種技術によって改良し、固形化しやすい油にするなどの方法もあります。FDAはそうした代替技術があることを確認し、PHOsを排除した場合の経済的な影響も検討しました。排除のコストの見積もりは、20年間でおよそ62億ドル。得られるベネフィット(便益)は、1400億ドル。PHOsを排除して、それだけ多くの人が健康になり医療費を削減できれば、社会の利益はこんなに大きい、というわけです。

日本人の摂取量は、アメリカ人よりうんと少ない

 では、日本でのトランス脂肪酸の健康影響は?そのことは前回も書きました。日本人の平均摂取量は、食品安全委員会が2012年に公表した評価書によれば、総エネルギー摂取量の0.31%です。肉や乳製品などからの天然のトランス脂肪酸、それに脱臭精製工程でできる分の摂取を除外し、PHOs由来のトランス脂肪酸のみを検討すると、総エネルギー摂取量の0.12%です。

 この値は、2003年から2007年の国民健康・栄養調査や農水省の製品調査などに基づく推定値。その頃から企業のトランス脂肪酸削減が始まり、今では多くの製品が低減に成功していますので、現在の摂取量はさらに下がっているだろう、とみられています。食品安全委員会は「通常の食生活では、健康への影響は小さい」と説明しています。

 「平均値はそうであっても、食生活に問題があり油っこいものやお菓子などを多くとっている人は、トランス脂肪酸摂取量が多い。だから規制を」という意見もあります。しかし、その点についても、食品安全委員会はデータを示しています。

 日本人の95パーセンタイル値(多い順に並べて上位から5%の位置の人の数値)は、総エネルギー摂取量の0.73%。PHOs由来のトランス脂肪酸摂取量は、0.43%です。WHOの目標値を大きく下回っていること、そしてアメリカ人に比べてかなり摂取量が少ないことを、理解していただけることでしょう。

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